アオコの科学

【青粉(アオコ)】

 

湖、池、養魚池、金魚鉢などの水が春から夏にかけて緑色に濁る事が多い。これをアオコと呼び、淡水性の植物プランクトンが繁殖したためである。ラン藻植物のミクロキスチス、アナベナ、アナベノップシスなどの諸属、緑藻植物のクロレラ、セネデスムス、クラミドモナスなどの諸属がある。

いずれも10ミクロンほどの微細体である。家庭の池や金魚鉢では 緑藻植物が多く、初期は鮮緑色でのちに濃緑色になる。これに対し、養鰻池など、投与した飼料で有機物含有量が多くなった水中では、ラン藻が多くなる。当初から青緑色で、増殖が進むと油性ペンキのようになる。最近話題になるアオコは、ほとんどがラン藻である。

アオコは光合成によって酸素供給をし、魚介類の餌となるので繁殖が適切であれば問題はない。しかし異常に増殖すると魚介類を一斉に殺す事がある。恐らく夜間の水中酸素の消費量が増大し過ぎたり、魚のエラが繁殖したアオコでつまるためではないか、と考えられている。このような状態を『水の華』と呼ぶ。湖底に堆積したアオコの死骸を微生物が分解すると、非常な悪臭を放つ。異常繁殖の原因の一つは家庭用洗剤からの有機リンであることが判明している。

アオコが他の生物に与える被害は、酸欠などによる魚介類への被害以外にも、それ自身が持つ毒素によるものもある。アメリカ、オーストラリア、南アフリカ、中東などでは、放牧場内のアオコのわいた池水を飲んで牛馬が死亡している。日本ではそのような報告はまだない。

次項では今回問題となったラン藻について解説する。


【ラン藻(藍藻)】

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ラン藻(シアノバクテリア)は、光合成を行う最古の細菌である。歴史は古く、化石から推定すると実に35億年前から地上に存在していることになる。彼らは地球の酸素を増やし、あるものは最終的に植物に取り込まれて葉緑体になったとされる。

100年ほど前から、ラン藻の仲間には有毒種があることが知られている。事実、野生動物や家畜がラン藻を含む水を飲んで死亡する事件が、数多く報告されている。また、ある種のラン藻毒は癌の増殖に関与する、ともいわれている。中国のある地域では肝臓癌が多発することが知られているが、この原因として飲料水に低濃度のラン藻の肝臓毒が含まれていると推測されているという。

ラン藻による被害が起こるのは晩夏か初秋の蒸し暑い日が多い。条件としては、風が弱く、水温は15〜30度、水のpHは6〜9(中性〜弱アルカリ)、そしてチッソやリンなどの栄養素が豊富にある必要がある。これらの条件がそろったとき、ラン藻類は(競合する)藻類よりも強く繁殖する。

ラン藻毒は被害を受けた動物の症状から、神経毒肝臓毒の2つのグループに分けられている。

神経毒はアナトキシンa、サキシトキシン等4つの化合物が知られており、神経細胞のナトリウムチャンネルを塞いだり、神経伝達物質であるアセチルコリンと競合したりして筋肉の収縮を遮断し、呼吸を止める。しかし神経毒が見いだされるのは主に北米に限られている。

肝臓毒は世界各地でその被害が報告されている。現在までに50種類以上が確認されている。それらは何れも複数のアミノ酸が化合したポリペプチドである。大きく分類すると、7つのアミノ酸から成るミクロシスティン類と5つのアミノ酸から成るノデュラリン類になる。これらの毒素は、胆汁酸塩の肝細胞への輸送系に便乗して肝臓を破壊するらしい。肝細胞に入った毒素は、細胞の骨組みを形成している中間径線維とアクチン線維を破壊する。骨組みを失った細胞は、空気の抜けた風船のようにしぼんでしまう。

最近の研究によれば、これらの肝臓毒は致死量以下でも、発ガンを促進するという。中国のある地域では肝臓癌の発生率が異常に高く、この人たちは飲料水にラン藻が混じった状態で長年摂取しており、因果関係が非常に濃厚であるという。現在長期調査が行われている。

近年、ラン藻の一種であるスピルリナが健康食品として市場に出回っている。スピルリナ自身は無毒であるが、見かけ上区別出来ない肝臓毒をもつラン藻が混入する可能性は大きい。こうした食品を長期に摂取すれば健康を害する可能性がある。



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