アトピー性皮膚炎

アトピー性皮膚炎



単に『アトピー』ともいい、アレルギー体質(過敏体質)にともなう湿疹である。小児喘息などのアレルギー性疾患も同じ原因で、子供を中心とした若年者に多い。皮膚に傷害が出るだけでなく、慢性的に続くかゆみは子供の精神状態を不安定にさせる。

アトピー体質は遺伝性とも言われるが、単なる遺伝病ならば、近年急速に増える筈がない。しかしこの数十年間で数倍以上に増加したとされているので、原因は環境の変化であると考えられている。

原因の一つとして、アレルギーの基になる物質(アレルゲン)が、昔に比べて増えている事が指摘されている。気密性の高い住居は、ダニやホコリを増やし、産業の発達と車の増加は大気汚染をもたらした。食物には人工添加物が混ぜられている。これからも新開発の生活物資が次々と登場することが予測され、それらが更に事態を複雑化させることはほぼ間違い無い。

すなわち、アトピーの体質そのものは昔から存在した筈なのだが、最近の生活様式の変化や環境変化が発症の引き金を引いているらしいことを理解していただけると思う。

【症状】

アトピー性皮膚炎は、年齢によって症状や原因物質に違いがある。

基本的に、湿疹症状は全身どこでも出るが、年齢によって特徴がある。 簡単に特徴を列挙する。

乳児期
耳たぶ、ほっぺた等に赤い湿疹が出やすい。

小児期
肘、膝の屈側に慢性の痒みのあるブツブツが出やすい。全般的に皮膚の乾燥が強い。

思春期・成人期
ほぼ全身に出るが、頸部などにしつこい湿疹が出やすい。

【治療】

アトピーは長期間にわたる皮膚病なので、個々の場合に応じて、長期的かつきめ細かく治療して行かねばならない。

アトピーは生後4カ月までに発症し、その後自然治癒する場合が多いので、原則としてあまり強い薬を使うことはせずに、対処的に治療する。小児期以降は部分的にステロイド外用剤を用いる場合もあるが、基本的には抗アレルギー作用のある内服薬を継続的に内服することが大切である。

2歳ころまでは食物アレルギーから湿疹が出る場合があるので、こうした場合は食事療法が有効な場合がある。湿疹の直接の原因となる刺激物質(アレルゲン)は、乳児期には食べ物であることが多い。特にタマゴ、牛乳、大豆が3大アレルゲンとして有名である(米国ではタマゴ、牛乳、ピーナッツ)。栄養を吸収する腸の働きが未発達のため、不完全に消化された食べ物が血液に入ってしまうために起こる。

アレルゲンを含まない食事を採れば症状が改善する場合もあるが、これらはチーズやケーキはもちろん、あらゆるものに含まれている。ほんの僅かでも食事やおやつに入っていれば湿疹が悪化する可能性が高いので、 現実には入院して完全な管理下にでないと食事療法は非常に困難である。家庭で中途半端に行うと、子供の成長を著しく抑制することがあるのでマイナス面が強く、安易には勧められない。

とはいえ、有害と思われるスナック菓子などを際限なく食べさせたりすることは良くないし、犯人とわかっているタマゴ等を無配慮に食事に使うのは良くない事である。ゼロには出来なくても、アレルゲンの摂取量を減らしながら、栄養バランスを保つことは出来る。3大アレルゲンについて代用品を表にしたので、参考にして頂きたい。現在ではアレルゲンを腸から吸収されにくくする薬もあるので、食事療法と併用しながら治療しうるようになった。

3、4歳頃になると、腸の働きも正常化するので3大アレルゲンの重要性は減少する。それに代わってハウスダストやダニといった皮膚から浸入するアレルゲンが重要になってくる。これらのアレルゲンから身を守るには、これらが皮膚に付かないように工夫するしかなく、家庭内のアレルゲンを減らすように対策を取る。カーペット、カーテン、下着などの対策は多くの刊行物に書かれているので参照していただきたい。(当院でも「アトピーのスキンケア」というオリジナル小冊子を用意している)

思春期以降も原因物質は皮膚より侵入するアレルゲンで、学童期と事情は似ているが、症状が多様化する。ほとんどの場合は軽症であるが、なかには治療に抵抗する場合も少なくない。
特に顔面の湿疹は頑固であり、症状に応じた工夫が大変重要となる。顔面の湿疹は、ステロイド外用剤により逆に悪化している場合があるので注意を要する。ここで是非とも注意して頂きたいのは、「ステロイド外用剤は危ない」という事を人に聞いたり、本で読んだりして恐くなり、自分自身の判断で病院で処方されたステロイド外用剤の使用を止めてしまう事である。そうすると、「リバウンド現象」という事が起きて、逆に急激に悪くなる可能性が高い。長年顔面に使用しているステロイド外用剤を止めるには、いろいろな手法を使って時間をかけて行わねばならない。困難を伴うことが多いので、患者さんと医師とが一体となって当たるべき問題である。

【解説】

医師が「アトピー性皮膚炎」という診断を下すのには、注意を要する。日本皮膚科学会の作成した診断基準もあるが、これは曖昧で解りにくい。啓蒙書に写真が載っているような、典型的な場合は問題ないけれども、軽症の場合は問題となる。多くの人は、子供時代のある期間、乾燥肌を経験する。これは皮膚の未成熟ゆえの現象なのであるが、ほんの一時的な軽い湿疹であるにも関わらず、乾燥肌の湿疹を「アトピー性皮膚炎」と診断を下す医師がいる。近年アトピー性皮膚炎が増加している、と言われているが、ある部分はこのような医師による過剰診断が含まれているものと思われる。しかしそれらを差し引いても、やはりアトピー性皮膚炎が増えていることは間違いないようだ。

また近頃では免疫抑制剤配合の軟膏が登場し、ステロイドに依存しがちであった治療にも変化が起きており、次第にアトピー治療のイメージも変わって行くことだろう。

アレルギーというのは体内の免疫システムが引き起こす反応である。体を外敵から守るために存在する筈の免疫が、なぜ湿疹を引き起こしてしまうのであろうか。免疫には何種類かあるが、その中で、主に関わっていると思われるものは寄生虫排除の仕組みと同じであるため、公衆衛生の発達により寄生虫が激減した現在、暇になった免疫システムが新たな活路をダニやホコリに見出したのだ、という説がある。この線でも新薬開発が進んでいるという。


<この項は、元大阪大学医学部皮膚科講師、足立 準氏の協力を得て作成しました。>

Back