コンピューター
Computer Standing by !
Working..
スタートレックには数々の驚異的なテクノロジーが登場するにもかかわらず、どういうわけかコンピューターはいつも目立たない存在である。驚異的な処理能力を持つはずなのに、それが目に見えて活躍するのはホロデッキくらいのものである。どのコンピューターも大抵常識的な素振りしか見せず、そのすばらしい能力をいかんなく発揮してくれるエピソードは数少ない。"The Ultimate Computer" [TOS]に登場するM5というコンピューターは例外的に主役となっていたが、それ自体は失敗作であり、データ少佐の兄ローアのように悪役であった。しかしTNG時代のコンピューターはM5を遠い祖先に持つコンピューターの筈である。おそらく進歩したコンピューターには何らかの抑制的な仕掛けが必要で、それが無いと暴走して人間にとって危険な機械とりかねないのだろう。それ故、みな凡庸に見えるのかも知れない。24世紀のコンピューターは、表面的な能力だけでは評価できないようである。
ギャラクシー級の宇宙船(エンタープライズ号など)には宇宙艦隊が誇る最大級のコンピューターが搭載されている。
それは3つのコンピューターユニットに分割されており、そのうちの2つは円盤部(ブリッジを挟んで対称に)で、残る1つは機関部と円盤部との接続部付近にある。
各ユニットはシリンダー状をしており、8デッキ分の高さがある。しかも、それぞれには亜空間フィールド発生装置が取り付けられ、亜空間内部で演算させて、実質超光速での演算を可能にしている。
それぞれのユニットは2048個のモジュールからなり、それぞれのモジュールは144個の光学プロセッサからなる。このプロセッサにはデータアクセスアクセラレーターチップが付属している。各モジュールは634,060 kiloquads、よって総計1.29 x 10^9 kiloquadsの容量を持つ。【quadがどれだけの情報量を表すのかは不明。しかし多数の研究者のおおよその一致した推測によれば、One kiloquad = 1 x 2^60 bytes つまり、約10億ギガバイトらしい。 この時代では一般的な単位である】
これらのユニットの他に船内には380個のサブプロセッサがある。殆どはメインユニットを補佐するためだが、ブリッジや転送室、機関部等で使われるものもある。これらは超光速演算は出来ない。
ユニットやサブプロセッサは、光学データ網 (ODN: Optical Data Network)で接続されている。
DS9では、カーデシアが残していった器材を出来るだけ利用しているが、驚くべき事にメインコンピューターまで使っている。このコンピュータは大変強情、小役人的で使いにくい事はなはだしい。すぐに「それは認められません」と拒否するので、度々手動に切り替えねばならず、オブライエン技術主任は、大層嫌っている ("Emissary" [DS9]、"The Forsaken" [DS9])。コンピュータの性格付も、種族の性格を反映している。
スタートレックでは、コンピューターは人間のように性格を剥き出しにすることを抑制されているようだが、やはりこのように性格は出てしまうものらしい。この時代のコンピュータは生物の神経回路を模倣したニューラルネットになっているため、「経験」から学んで回線の接続も動的に変化させてゆき、コンピューター毎に異なる性格を獲得する。経験は単に知識を増やすだけではなく、ハードウエア自身をも変化させてゆくわけで、ソフトウエアとハードウエアとの境界、さらには、情報とハードウエアの境界が曖昧となる。ヴォイジャー号のホログラム・ドクターはインストール時には単なるプログラムであったのだろうが、経験を積むうちに彼は『すみか』であるコンピューターと一体となり、もはやそのプログラムだけを分離してダウンロードすることは出来なくなっている ("Eye of the Needle" [VGR])。これは人間のこころを脳から分離できないのと同じである。
エンタープライズ号よりさらに新しい設計のヴォイジャー号には、従来の固形の素子だけではなく、バイオ神経回路 (Bio-neural Gel Pack)も搭載されており、ニューロネットの可塑性が高いものと思われる。それに伴って総合的な演算速度も飛躍的に高まっているという。しかしこれは脳の一部を培養液漬けにしたようなもので免疫システムは存在しないようなので、ウイルスなど病原体に対する耐性は無いところが弱点である ("Learning Curve" [VGR])。
補足解説1
会話の中にしか登場しないけれども、ディストロム研究所という有名な施設がある。それは惑星連邦の科学技術をリードする研究所で、当然のようにここは多くの優秀な科学者を輩出してきた。データ少佐を解体して研究しようとしたマドックス中佐はここの教授であったし ("The Measure of A Man" [TNG])、USS Enterprise-Dのエンジン設計をしたリア・ブラームス博士もこの研究所出身である ("Booby Trap" [TNG])。この研究所の名称になっているリチャード・ディストロム博士 (Dr. Richard Daystrom)こそ、あの“M5”を開発した23世紀の天才科学者である。
彼は 2243年、24歳にして、その後80年以上もの間連邦の標準技術として用いられることになるデュオトロニクス (duotronics, 詳細は不明)というコンピューターの革新的技術を開発して名声を得、さらに 2260年代にはマルチトロニクス (multitronics)という技術を開発した。これは人間の悩と同じように記憶エングラム(痕跡)を装置に焼き込むことができるため、より高度な推論機能が期待できる。しかしそれは同時に無意識的な闇の部分を持たせることにもなり、手に負えない制御不能に陥る危険性も孕んでいたのである。かくして2268年、USS Enterprise(初代)で動作実験が行われた際、突然仲間の船をフェイザー攻撃してクルー数百人を殺害するという事件が起きてしまった。(しかしディストロム博士自身の倫理感も焼き込んであったため、カーク船長の巧みな誘導で「殺人は認められない」事に気付かされ、最後にはみずから機能停止した)
この悲劇的事件によってマルチトロニクスは不採用となり、24世紀前半にアイソリニア・チップに取って代わられるまで、実に80年以上に渡ってデュオトロニクスの時代が続いた。アイソリニア・チップは光の屈折を利用した演算・記憶素子であり、コンピューター内部のラックにある無数の差込口に装着して使用する(現代のLSIに相当するものと考えられる)。マルチトロニクスが採用されなかったとはいえ、各コンピューターが一定の性格をもつことから考えれば、記憶エングラムはある程度残留するような設計になっているようだ。
補足解説2
コンピューターの技術は現代すでに日進月歩であり、次世代、次々世代のマシンのアイデアも理論段階から実用段階に足を踏み入れつつある。例えばタンパク質などの「バイオ素子」を用いたバイオコンピューターや、量子力学の奥義を利用した「量子コンピューター」などは特に有名である。バイオ素子を用いれば乾電池駆動の手のひらサイズのスーパーコンピューターが実現するかもしれないし、量子コンピューターは量子の世界の曖昧さを逆に利用して一つのマシンで多くの演算を並列同時進行させ、スーパーコンピューターでも1億年かかるような膨大な計算を数秒でやってのけることも可能だといわれる。さらに面白いことに、量子コンピューターは演算時間を制限してもそれなりの答えを弾き出すけれども、その代わり間違いの確率が増えるのだという。間違いを犯してくれるコンピューターとは・・・何とも魅惑的ではないだろうか。より生命に近いともいえる。
これらは24世紀といわず21世紀前半には実現しているだろうし、その間にも次々と新しいテクノロジーが登場するだろうことは目に見えているので、さらに数百年後のエンタープライズのメインコンピュータなどは、実際にはとてつもなく高い能力を持っているはずなのである。
補足解説3
上述したように、この時代のコンピューターは生物の神経回路を模倣したニューラルネットになっており、自己学習型である。例えて言えば、我々が利用するインターネットが(あるいはその何万倍か?)そっくり一つの超高性能コンピュータシステムに入っているようなものである。そのため、ある情報をいったん入力すると、そこから派生して発生する付随データが自動的に発生してしまい、後からそのデータを削除しても必ず「痕跡」が残ってしまう。情報の削除・改ざんの行為そのものも同様に記録に残るため、全てを完全に消し去るのは難しい。このような「情報の断片」を時間と労力をかけて繋ぎ合わせることによって、元のデータを復元することがある程度出来る ("The Wire" [DS9], "Collaborator" [DS9])。
宇宙船などで頻繁に利用するデータは、現在の電磁メモリーや光学メモリーの技術の延長線上にある物かもしれない。しかしレプリケーターが実用化されているこの時代ならば、結晶などの原子・分子配列、さらにはイオン化状態などを意図的に作り出すことが出来るので、長期保存するための膨大なデータは、何らかの分子情報として蓄えることが可能なはずである。惑星連邦の図書館とでも言うべき Memory Alpha等ではこうした技術が用いられているのかもしれない ("Whom Gods Destroy" [TOS], V'Ger in ST1)。
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