通常エンジン
通常エンジン(impulse engine)は純粋にニュートン力学的(作用・反作用)エンジンである。重水素核融合炉から高エネルギープラズマを方位制御可能なノズルを通して後方に噴出する。
Galaxy級の船に搭載される通常エンジンはConstitution級(旧Enterprise)とは異なった設計をされている。Galaxy級の エンジンは同時に亜空間フィールドも作る。融合炉からのプラズマの一部は小さなワープコイルに流れ込み、亜空間フィールドをつくり出す。しかしワープエンジンのそれとは異なりその規模はずっと小さい。従ってワープには入らないが、亜空間フィールドは船の質量を大幅に減らすのでエンジンの負担が減少し高速航行を可能にする。【亜空間の項を参照】
瞬発的な加速が必要な場合は、正・反物質反応炉(メインパワー)からエネルギーを流用することもある。"Booby Trap" [TNG]では1マイクロ秒(100万分の1秒)だけエンジンが点火されたが、こうした場合には核融合炉では力不足である。
Technical manualによれば、通常エンジンはドッキング時や惑星間飛行、また亜光速恒星間飛行にも使用される。速度が光速の75%を超える時は円盤部のエンジンも使う。ただ、そのような高速航行は相対論的な時間の遅れ(計算上0.75cで約34%も遅れる)が著明であり、通常は行われない。
生命の住む惑星の近傍などではワープは使用されず、もっぱら通常エンジンが使われる。ワープエンジンが作るワープ場が、彼らの住む空間を引き裂く可能性があるからである。
記録に拠れば、核融合推進エンジンによる初期の亜光速宇宙旅行が始まった21世紀後半には相対論的時間の遅れが現実のものとなった。乗組員の活動が地球に報告され、また地球の発展が宇宙船に知らされるようになると、船内ではさほど時間が経っていないにも拘わらず地球では何年も経っているという時間のズレが人々の興味を引いた。この種の多くの経験が基になり現在の規約が設けられたのである。
今日このような時間のずれは宇宙艦隊の時刻管理体制に少なからぬ影響を与え、相対論的速度による長距離の飛行は任務遂行に支障をきたす。ワープ航法が登場する前はたとえ常にビーコンで船が捕捉されていても、常時地球との時刻合わせが行われていた。このような経験から現在では通常エンジンによる飛行は光速の25%に制限されている(この場合の時間の遅れは3%以下)。
なお、通常エンジンによる航行では、大きな加速度が船全体に加わるため、慣性制動システム (Inertial Damping System)が低レベル亜空間フィールドと重力場の組み合わせによって艦内の物体や人間を守っている。このシステムが無ければ、クルーは巨大な加速度に耐えられず、壁に激突して押しつぶされてしまうだろう。Enterpriseでも Defiantでも、敵の攻撃を受けた時にこのシステムはすぐに故障するようである。
補足解説
『ワープ航法に比べたら通常エンジンによる航行など簡単である』と考えるのは早計である。本当のことを言えば、ワープを使わずに高速で航行するのは極めて困難な事なのである。
通常エンジンは別名、反動推進エンジンとも言う。反動により船に推力を与えるが、その反動とは、燃料ガスの噴射である。それ以外には何もない。水素やヘリウムなどの質量の小さいガスの反動だけで、数百万トンもある航宙艦を加速しなければならない。低速ならばさほど困難ではないが、光速近くまで速度を上げるのは全く途方もない壮大な話なのである。
反動推進の理論は既に確立しており、20世紀の科学で計算可能である。というか、高等学校の物理(数学)の知識があれば誰でも計算できるのだ。もっとも基本的な数式は以下のものである。
[推力]={1秒間に噴射されるガスの質量}×{噴射速度}
船の加速度は、この推力を船の質量で除すれば出てくる。この式から、推力を増やすには毎秒噴射されるガスを増やすか、噴射速度を上げれば良いことがわかる。連邦の通常エンジンのエネルギー源は、重水素・重水素核融合反応(上述)である。この核融合で解放されるエネルギーは、燃料質量の約 0.1%であり(E=mc2による)、エネルギーの全てが噴射ガスに還元されると仮定して計算すると、自動的にガスの噴射速度は決まってくる。これは光速の数%となる。(ロスファクターが沢山あるので、実際にはそれ以下となる)
Technical Manualには、Enterprise-Dが光速に迫る超高速(亜光速)を出せるかのように書かれているのだが、もしも噴射速度を遥かに超える光速の 80%まで加速しようとすれば、『船の質量の約 99.9995%以上が燃料』でないとダメなのである。(これを「質量比の壁」という。この計算はややこしいので省略)これでは「足の踏み場もない」であろう。しかも、そこまで到達するには何年もかかってしまう。推力を増やして短期間で加速することも理論上は出来るが、それだけ早く燃料を消費するのでやはり同じ事なのだ。
この困難を回避するため、宇宙艦隊の大型船は亜空間に沈めて見かけの質量を減らして航行する、と説明されている。もし船体の慣性質量を1/100に出来るならば、核融合炉の出力は不変と仮定して、ガスの噴射速度は 10倍となり、船の加速度も 10倍となるので、燃料は大幅に節約できる。(この計算は相対論による補正をしていないので、正確ではないが)しかし、それでもなお船体の多くの部分(恐らく船の半分以上)が燃料で占められる事に変わりはない。
では Enterprise-Dは亜光速で航行出来ないのだろうか?
出来ない事は無い。第1の可能性は、タンカー船を併走させて、常に燃料補給が受けられる状態にしておくことである。そうすれば、いくらでも燃料を消費出来るから亜光速まで出せる。しかしタンカー船も同じように亜光速を出す必要があるので、本末転倒かもしれない。第2の可能性は、内蔵燃料である程度速度が出たら、バザードラムスクープに切り替えることである。但し、亜光速にするには何年もかかるであろう。【非常時燃料補給の項を参照】
『ワープから離脱する時の「惰性」を使えば亜光速は軽く出せるのでは?』という考え方もあるだろうが、ワープ航行時には船は周囲の空間に対して静止状態であるから、ワープから通常エンジンに切り替える時には船の速度はゼロなのである。【亜空間の項を参照】
ワープ航法の発明は、光速を超えて恒星間航行における時間の壁を破ったという事以外にも、膨大な燃料の節約という意義もあったのである。来るべき宇宙大航海時代にはワープ航法が必須であることが、この観点からも分かる。
そもそもワープ航行可能の時代に、亜光速航行など無意味と言えよう。事実、通常エンジンの使用は星系内部での移動に限定されていて、星系間の移動に使われたエピソードは無い。(もちろんDS9のワームホールは例外)スタートレックでは、ワープエンジンを主エンジン、通常エンジンは補助エンジンと邦訳したほうが適切である。
結論的には、連邦の船艦のデザインはワープ航行には向いているが、通常エンジンで高速航行するには向いていないものと考えられる。核融合推進を用いた宇宙船の典型的なデザインは、映画「2001年宇宙の旅」に出てくるディスカバリー号であろう。これは実に理に適っており、それに‥ 極めて美しい。
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