医療技術


I am an emergency medical supplement. A supplement, that's all. [Holodoc]

新たな技術が開発された場合、その応用対象として医療分野が挙げられないということは希である。事実、今日の医療技術には科学技術の最先端が採り入れられている。その事情は未来でも同じのはずである。

スタートレックで特に際立っているのが素晴らしい診断技術である。医師は患者に触れずに大抵の事は分かってしまう。治療技術も夢のようだ。外科手術ではほとんど血が出ないし、内科的には遺伝子レベルの治療が当たり前である。
24世紀の地球には、今日世界に蔓延るような貧困は無く、殆どの人々が進歩した医療の恩恵に浴する事が出来るのだという。結果我々は古典的な伝染病はもちろん、心臓病や癌などという初歩的な疾患で命を落とすことは無いであろう。



エンタープライズやディープスペース9の医療室 (Sick bay)はとても綺麗である。あのような立派な施設は、現代世界のどの医療機関でもまだ見ることが出来ない。

現代の病院の集中治療室などには処置台、輸液装置、点滴台、心電図モニター、人工呼吸器、除細動装置などの多くの医療器具や注射、点滴などの医薬品などが所狭しとひしめき合っており、またCT等の検査には別室の巨大な装置を必要とする。スタートレックでは、いずれも効率よく小型化・統合化されて、迅速な対処が可能となっている。

例えば瀕死の大ケガをした患者が病院に運ばれてきた場合、現代ならば聴診器で心臓や肺の状態を聴診し、呼吸に問題があれば人工呼吸器を装着したり場合によっては気管切開し、ペンライトで瞳孔の大きさ、形そして反応性を確認して脳の状態を推測し、心電図を取るために電極を腕・足・胸部に取り付け、点滴をするために腕や足の血管に注射針を刺す。血液データをとるために採血して測定器にかける。その上で、ケガの処置をしながらレントゲンや超音波断層、血管造影、CT、MRIなど必要な諸検査をする。原因が特定され、緊急手術が必要と判断されれば手術室に運ばれる事になる。

このように多くの仕事が一気に発生して、処置室はさながら戦場のようになるのだが、24世紀の医療スタッフにはもう少し余裕がある。
まず患者が医療室に運ばれて来てベッドに横になると、天井にあるセンサーが自動的に基本データ(呼吸や脈拍など)を把握する。医師は、医療用トリコーダーで患者の体を隈無くスキャンすることにより問題の箇所を瞬時に検査でき、そのデータは医療用PADDに転送されるので、医師や看護師がカルテにデータを書き移すという雑用は必要ない。必要ならばコンピューターに診断や推論させることもできる。

医療室全体は除菌フィールドに覆われており、また塵やほこりはもともと自動的に除去されるので、手術などを施行する場合でも清潔維持努力は特に必要ない。処置用ベッドには手術用フレーム (surgical support frame)というアーチ状のユニットが取り付け可能で、輸液管理や手術の支援をする。このベッドには落下防止用の柵が無く、様々な医療処置がやりやすくデザイン的にもすっきりしている。そのかわりフォースフィールドを利用した患者の落下を防止するシステムが備わっている ("Time Squared" [TNG] etc.)。

もともと滅菌環境なので、手術が必要でも患者を特別な部屋まで移送する必要は無く、そのまま治療が続行できる。無駄な時間を浪費せずに、診断と治療に連続性が確保できるわけである。これは医師にとって大きなメリットである。言うまでもないことだが、医師は手術の前に滅菌水と洗剤を用いた時間の掛かる念入りな手洗いは必要ないし、あわてて患者の衣服を脱がせる必要もない。

診断の要となる医療用トリコーダーは、患者の異常部位を大雑把に把握する為に使われるが、より正確なデータが要求される時には血液サンプルや皮膚・内臓の組織サンプルが必要となる。患者の死因を正確に特定するためには、この時代においても解剖が必要な場合もある ("Suspicions" [TNG])。とはいっても、DNAの塩基配列はトリコーダーで直ちに分析できるらしい ("The Chase" [TNG] etc.)。

診断さえ正確にできれば、24世紀のテクは外科的治療の多くを素人にも可能にする。 中等度の外傷や骨折であれば、糸で縫ったり手術したりする必要はなく、携帯用の組織再生装置のビームをしばらく当てていれば治癒する。この装置のメカニズムは不明だが、自然の組織修復過程を何らかの方法で促進して修復時間を数百分の1に短縮できるようだ。この装置のおかげで、包帯やギブスはほとんど出番がない。

しかし外科手術が必要な場合も度々出てくる。切開はレーザーメスで行い、通常は手術用フレームの支援のもとに行う。術後は縫合用のビームが用いられ、手術痕はまったく残らない。切開がフェイザーではなくてレーザーというのは面白い。フェイザーは周辺組織へダメージの波及が大きいのかもしれない。縫合ビームは、組織再生用ビームとトラクタービームを組み合わせたものであろう。

潜入作戦の実行のために顔の整形手術が結構簡単に施行される。ロミュランに化けたり ("Enterprise Incident" [TOS], "Unification" [TNG])クリンゴンに化けたり ("Apocalypse Rising" [DS9])と自由自在だが、ロミュランの耳やクリンゴンの額などの突起物を細胞を増やして整形するのか、樹脂などをある程度併用するのかは不明で、手術法の詳細はよくわからない。もちろんトリコーダーなどで調べれば、スパイであることは直ぐに知れてしまう。

体内に入り込んだ外的異物を摘出する場合、通常は手術による方法がとられるが、脳内奥深くに埋め込まれた装置類を摘出することは極めて困難である。このような場合は医療用の小型の転送装置が用いられることがある("The Wire" [DS9])。この転送における目標捕捉には極めて高い精度が要求され、もし転送除去後に大出血が予想される場合には代替充填物を同時に転送移植する必要がある。

内科的治療では薬物による伝統的な手法も健在だが、その他ウィルスや微小ロボット (nanites)も用いられる。ウィルスは遺伝子治療などで現代でも用いられるようになってきたが、ナノマシンは夢の技術である。ウィルスに迫る小ささにもかかわらず個々がギガバイト級のコンピュータであり、昆虫のように自走が可能で、プログラムや指令通りに体内の病巣を治療して回る。この技術があれば、癌や心臓病の治療は極めてたやすい。通常は個々のロボットは中央の司令を実行するだけであるが、互いに情報を交換出来るように上手にプログラムすると、一夜にして知的集団生命体として意識を持つまでに進化させてしまった事がある ("Evolution" [TNG])。意識を持てば生命だと認めねばならず、「彼等」の取り扱いには充分に気を付ける必要がありそうである。

24世紀においては、クローン技術はほぼ完成の域に達している。細胞増殖速度を調節する技術と組み合わせれば、クローン人間を作るのにさほど時間は掛からない ("A Man Alone" [DS9])。しかし倫理的・宗教的な理由もさることながら、自分のコピーが数多く闊歩すれば宇宙唯一としての自分の存在価値がなくなる、という理由から、自分自身のクローンが作成されることを大多数の人は拒否する。なお、数世代以上のクローンは遺伝子の損傷が限界を越えるため (replicative fading)、作成不能ということである ("Up The Long Ladder" [TNG])。

怪我や病気の治療の際に、治療の準備の時間を稼ぐための装置もある。ほとんど会話の中でしか出てこないが、ステーシス・ユニット(stasis unit)という装置に人間を入れると、血流をはじめ代謝に至るまで止まった状態に出来る ("Tapestry" [TNG] etc.)。これはおそらく冷凍睡眠技術を発展させたものだろう。

USS Voyagerや USS Enterprise-Eでは医療室そのものが大きなホロデッキになっており ([VGR] all, ST8)、ホログラフィーのドクターが本物の医師に代わって治療に当たる事が出来るようになっている。このホログラムドクターにはドクター・マッコイをはじめ、歴代の名医の知識ベースを駆使する能力がある。しかしこれは自動航行装置で宇宙船を飛ばすのにも似て、通常の任務の範囲内であれば問題もないだろうが、厳しい状況下での高度な判断が必要な場合には人間の医師が必要となるなので、あくまでバックアップ用のシステムとなっている。

今日の病院では、診察室はともかく、処置室や手術室を清潔に保つのは実は大変なことなのである。血や膿の付いたガーゼや包帯、注射器や点滴セットなどが大量に発生するため、医療関係者は清潔を保つために労力を強いられる。それでも完璧にはほど遠い。ところが、このような未来の医療技術を用いるならば、そもそも医療廃棄物というものがほとんど発生しないことが分かる。




Back