VIVA!ぱられるわーるど | |
TIME ATTACK STAR TREK Next Generation |
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Written by NEW BEN、野呂博之、ベイチョウ |
− FINAL −
決勝の日が来た。乾いた空気に夏の日差しが眩しい。路面は熱く焼けていた。
「ケントったらねぇやきもち妬いていたわよ。データに。凄腕のドライバーなのって言ったら、『デトロイトを見ていろ!』だって。」
マナミの楽しそうな口振りにピットクルー達の緊張が和んでいた。ラフォージはマナミとそばにいる女性のレースクイーンスタイルに見入っていた。
「あ、あの、その格好!」
ノースリーブで超ミニのスカートがマナミの妖艶さをさらに倍加させていた。
「ああ、これ、色々と掛け持ちなの。弱小チームだからね。予算が余り無いのよ。エンプラそろそろ行きましょ。」
そう言うと、妖艶な二人はグリッドの方へと駆けていった。
ラフォージは、ほう、そんなものかと納得すると、ピット裏に抜け出し。コミュニケーターでデータに通信をした。コミュニケータは単独で使用できるよう、前日中データが改造しておいた。
「データ、こちらの話しは、これでする。何が起こるかわからないから充分気を付けてくれよ。」
”エンジン、計器全て順調だ。”
午前のアトラクションも終わり、午後、決勝スタートまであと数分となった。
☆ ☆ ☆
エンタープライズのブリッジでは、緊張した時間が過ぎていった。転送室で作業を進めていたタマック大尉から呼び出しがあった。
”データ少佐とラフォージ少佐からのものと思われる信号をキャッチしました。音声に変換できそうです。”
「ブリッジにつないでくれ。」
ピカード艦長をはじめとするブリッジ士官達は耳を澄ました。と突然爆音がブリッジ全体に響き渡った。
「な、何だ?この音は?」
自動的に音量調整されたが、ピカード等は耳を両手で塞いでいた。ウワーンウワーンとうなりをあげている。
「コンピュータ!この音を分析せよ。」
”ブンセキ完了。20世紀末自動車レースに使用サレタ車ノエンジン音。揮発性液体燃料ヲ使用・・・”
「聞こえる音声などから、場所と年代を特定せよ。」
”ケンサク中。”
聞こえる音といえばエンジンのけたたましいうなりと喚声に混じってやかましく叫ぶ声である。ほどなくコンピュータのビープ音とともに、報告があった。
”ジダイ1984ネン8月、カナダ、モントリオール、『ジル・ヴィルヌーヴ・サーキット』ニオケルフォーミュラー・レベル1・カーレース・・・”
その直後にタマック大尉から報告があった。
”データ少佐とラフォージ少佐の、通信と思われる音声を認識しました。”
「つないでくれ。」
”ビブブ・・ビバ・・・おい、データ、そこだ!かわせ!いいぞ!やほーっ!プアーン・・・”
ピカード艦長は最悪な事態を想像したのか、憂うつな面持ちになった。待機中のライカー艦長らもこの音を聞いた。なんだか楽しそうである。
☆ ☆ ☆
”エンジン音にフィルターをかけました。こちらからも送信を試みてみますか?”
「よしやってみよう。艦長室につないでくれ。」
”どうぞ。”
艦長室に戻ったピカードは、一度咳払いをして呼びかけた。
「こちらエンタープライズのピカードだ。ラフォージ少佐、データ少佐、聞こえるか!?」
”いいぞ!データ!これで8位に食い込んだぞ!”
ピカード艦長は聞こえていないのかと思い、もう一度呼びかけたが、答えたのはデータだった。
”こちらデータ。艦長今どちらに!?”
つづけてラフォージの声が聞こえた。
”おい、データ、艦長って何のことだ?”
データが応える。
”今、ピカード艦長から通信が来た。”
”本当か、一体どうやって?・・・・・・いや、何でもない、こっちの話しだ。・・あ、データしばらく待っててくれ。”
ピカード艦長は先方の状況を測り兼ねている。しばらくすると、小声で話すラフォージの声が聞こえてきた。
”こちらラフォージです。ピカード艦長、どうも我々のせいでこちらの過去の歴史が変わっているらしいんです。”
「こちらでも、それらしいことは認識している。何か情報が必要か?」
”1984年カナダグランプリにおける、ええと、チームブレイブの成績とその後のスポンサーの動向などがわかりましたらお願いします。”
「しばらく待ってくれ。コンピューター!・・・・」
ピカード艦長はコンピュータに検索を命じ、卓上のモニターに表示させた。それを見たピカード艦長は凍り付いたように見入った。モニターにはJ.L.ピカードの名があった。
− BATTLE −
残り周回数10周となった。トップを走るのはブラバムのN.ピケット、続いてマクラーレンのN.ラムダ、2秒後に同じくマクラーレンのA.ポロストがトップと約10秒後の差で追っていた。そして約10秒後には4位のD.アーウィン5位のM.スレートが競っていた。その後少しはなれてデータが後を追い、さらに10秒後には、ロータスのN.バンセル、トールマンのA.セネ、ウーリヨのT.アイズが続き、残り数台は周回遅れであった。既に11台がリタイヤしている大激戦である。
ラフォージはピカード艦長からの報告を待っていた。
と、その時である。場内アナウンスが第5コーナーでのクラッシュを伝え、場内が騒然となった。チーム・ブレイブのクルー達も前面に身を乗り出し、様子を伺っている。
「データは、大丈夫!?」
とマナミ。最終コーナーに全員の眼が行った。最終コーナーよりブルーのマシンが飛び出してきた。データだ。ブルーのマシンはぐんぐん近づくと猛スピードでピット前を通過していった。
「あんなに飛ばして大丈夫かしら?」
とマナミが心配するが、ラフォージはひとまず安堵し、ほっと息をついた。そこにピカード艦長からの通信が入った。ラフォージはピット裏に素早く移動して辺りの様子を伺いながらピカード艦長の通信を聞いた。
”あまり細かい記述はない。何しろ20世紀の1レースだからな。チーム・ブレイブはこのグランプリにおいて、リタイヤをしている。クラッシュと言うことだ。ドライバーはJ.L.ピカードということだが、次のデトロイト戦ではJ.L.ピカードは優勝・・・”
ここまで聞いてラフォージは青ざめた。もしかしたら今のクラッシュに巻き込まれなくてはいけなかったのではなかったか?しかも次のレースにも出るのか!?
「ピカードが優勝!?」
大きな声でラフォージは叫んだ!?
”おい、そんな事は言っていないぞ、次のデトロイト戦ではドライバーのK.アオバが4位となっているが。このカナダ戦でのJ.L.ピカードというのは・・?”
「う、あ、いや、色々とありまして後で報告します。それでスポンサーは?」
K.アオバとはあのケントの事である。先ほどの『ピカード優勝』は単なる聞き違いか?それとも歴史に変動があるのか?ピカード艦長からの報告は続いた。
”スポンサーのニューベンス事務機社は、翌年も継続してスポンサーを続けたようだ。”
ピット裏の壁に人影が差したので振り向くと、目の前にこぎれいなスーツ姿の女性が立っていた。
「ピカードが優勝すると良いわよね。チームブレイブはこちらで良かったかしら。」
クールな笑顔が似合っている。
「え、ええ、そうです。貴方は?」
「ニューベンス事務機社長秘書のオガワです。このレースは順調そうじゃない。社長もこれなら来年もいけそうだと言っていたわ。そのことをノウロウにも伝えたいのと、レースに興味があるのでちょっとこちらに足を運んだのよ。彼、いらっしゃるかしら?」
ラフォージは困惑した。このままでは3位だ。ここで良い成績を上げて認められるのか、それともわざとクラッシュさせて成績を正当なものにするべきか。データもこのやり取りを聞いているはずだ。
ラフォージは困惑しながら、ミズ・オガワをチームリーダーを兼ねているノウロウのところへと案内していった。
☆ ☆ ☆
エンタープライズはタイムワープを試み20世紀の空へと到着した。救出作戦はこうである。
当時の服装に身を包んだ、ライカー副長、ドクタークラッシャー、チーフ・ベイチョウが上陸。自然な成り行きでラフォージ等が当時の人間と別れられるように設定付けをする。身分は船乗りとその妻、そして乗組員の一人ということだ。さすがに艦隊の制服は不自然すぎるので、データとラフォージはエンジン部担当の特殊加工のスーツという事にした。問題は落ち合う場所であるが、ラフォージが適当な場所と時間を報告するまでは1984年の地球上空待機となり、状況設定の打ち合わせを進めていった。
クラッシュの直前、データは5位のMスレートに接近していたが、前方でスピンをした濃紺のマシンに乗る4位のD.アーウィンと赤いマシンに乗るM.スレートが接触して赤いマシンは回転しながらコースアウトし、紺色のマシンはデータの乗るマシンに向かってきた。データはアンドロイドの反射神経でそれをかわした。本来データのマシンにぶつかるはずの紺色のマシンは横を通り過ぎてコースアウトし、外壁フェンスに激突し2、3度バウンドすると炎上した。
そして、データはマシンを加速させた。その加速ぶりは今までの常識を遥かに超えるもので、カーブ時におけるマシンへの負担はギリギリのものであった。何と第4コーナーに於いてトップと30秒差があったものを一気に20秒まで縮めてしまったのだ。タイヤが煙を立ててキュルキュルとうなっていた。
1周りした所で事故のあったコーナーが近づいてきた。追い越し禁止を示すイエローフラッグが振られているがデータは速度を落とさない。炎上しているマシンに向かい猛スピードで疾走していった。
− CHECKER −
データのマシンはコースアウトしながら炎上するマシンに近づき、急ブレーキとハンドルを切り、停止した。炎上したマシンのそばに一人オフィシャルがいるが、熱さでそばによれないようである。消化器を持った救護隊はまだ到着していないようだ。ドライバーが脱出していない。安否が気遣われる。
データはマシンから素早く飛び降りると炎に向かって足早に歩んでいった。そばにいた人間が止めろと叫んでいたが、データは無視するかのようにマシンに向かい、ドライバーのシートベルトをひきちぎり、ハンドルを外すと、片手でドライバーを引っ張り上げて炎上するマシンから離れた。その瞬間マシンの炎は大きく広がり、マシン全体を包んでいった。そのとき消化器を持った救護隊が駆けつけ、データとD.アーウィンの二人に消化液を吹きかけた。燻っていたデータ達への飛び火は消えた。ドライバーはたいした怪我もないようだった。肩を担いでもらっているデータに、歩きながら手を差し上げ、大きく2、3度うなずいて無事だというポーズとお礼をした。
レースが終了した。会場は大騒ぎである。ピットガレージ内のチーム・ブレイブのメンバーはやや消沈しながら、片付けをはじめていた。データのマシンはタイヤがバーストしていて、救出作業後に復帰は出来ずリタイヤとなった。ガレージにはぼろぼろのデータのマシンが運ばれてきた。だがデータを責めるものは誰もいなかった。マナミが残念そうに言う。
「・・・きびしいわよねこのままじゃ・・」
ラフォージも悩んでいた。記録的には整合性がとれた。だが、来期にこのチームがなくなってしまってはまずい。
ガレージ裏の入り口にオガワが立っていた。
「今日は残念だったわね。社長もレースを見て言っていたわ。いいチームだって。後半戦の成績いかんでは来年のスポンサーも続けるとのことよ。」
クルー達の目に希望の光がさした。
「ひゃほー!」
クルーの全員が跳ね上がった。ラフォージも跳ね上がった。データはそのまま立ち皆の喜びようを不思議そうに見ていた。
ラフォージはなんとなく、これで大丈夫だと感じた。意気が揚がるピットを、静かにオガワは去っていった。
夜、祝勝パーティー会場のホテル入り口前。ドレス姿のマナミと艦隊の制服姿のデータとラフォージが立っていた。胸元の大きく開いた黒いワンピースを纏ったマナミはやはり艶やかであった。
「もう行かなくてはいけないの?ケントも会いたがっていたわ。」
「ああ、今度はヨーロッパに行くんだ。ここのバカンスは楽しかったよ。」
「わたし達っておんなじね。いつもあちこちを飛び回っている。」
「そのとおりだ。」
と言いながら、3人は笑った。
「あなたたちのことは忘れないわ。最初ね、段ボール箱の中にいたあなたたちが仔猫ちゃんみたいにみえたの。うふ♪」
ラフォージは顔を赤らめながら複雑な気持ちに駆られていた。
「データ、すばらしかったわ。ブレーブの名に恥じない行為よ。」
データはうなずくと淡々と礼をした。
大型の幌付きジープが入り口前に横付けにされ、扉がひらくと船乗りの男が二人出てきた。髭面の方の船乗りの男が言った。
「おーい、データ、ジョディ、そろそろ出発だ。」
ラフォージとデータは振り向いて自動車の方に手を振ると、マナミに向き直った。
「君たちの活躍ぶりは必ず観ているよ。それじゃ。」
ラフォージがそう言うとマナミは笑顔でうなづいた。ラフォージ達は片手を上げ別れの挨拶をすると、車の前で待つライカー副長とチーフ・ベイチョウの方へと階段を下って行き、振り返り手を振ると車に乗り込んだ。マナミは階段上の入り口の前で手を振っていた。最期にライカー副長がマナミの方に一礼して乗り込むと、自動車の扉は閉まり走り去っていった。
☆ ☆ ☆
『艦長日誌補足。24世紀に戻った一行は歴史記録などの確認を行ない大きな歴史的変化はなかった事を確認した。記録的には『11th,J.L.PICARD,TEAM BRAVES,RENAULT,RETIRED』があるだけである。
USS−HOKKAIDOのワープ時の異常は、ラフォージ少佐、タマック大尉以下捜査班の尽力により、ワープシェルの形成を効率化しようとした実験が引き起こしていたものと確定された。効果的だと思われた楕円球体のワープシェルは固定化するよりも今までどおりに若干の揺らぎがあった方が、空間への影響が小さいというのだ。固定化されたワープシェルは、タウ粒子を渦状態に残留させ、フージエ効果によりクロニトン分子が異常発生、さらに時空の歪みが生じたという事だ。今回の事故調査のデータは、次期ワープナセルの開発に重要な参考資料となるだろう。』
☆ ☆ ☆
ツナギを来たラフォージとヘルメットを抱えたデータがウォーフを引っ張りながら盛んに誘いをかけている。ウォーフは嫌そうだ。
「クリンゴンは、自動車レースなどお遊びはしないのだ!」
「いやお遊びではない。これは戦いなのだ。」
どこで覚えたのか、データが哲学的な発言をする。語調を強めてウォーフが言う。
「戦うのであれば、命を賭けなければならない!」
そこに、ラフォージが助け船を出す。
「いやいや、F1っていうのは一瞬の油断も出来ないレースなんだ。命懸けだぞ。怖いのか?」
「いや、クリンゴンは恐れない。」
データはホロデッキの扉の前に立ち止まり一度うなずくと淡々と答えた。
「じゃあ、やろう、今日は日本グランプリ鈴鹿サーキットだ。」
「うう・・・」
しぶしぶ従うウォーフを連れて、データとラフォージは、開いた扉から伝わる凄まじいエンジン音の中へと入っていった。
(「TIME ATTACK」おわり)