3Dチェス


3Dチェスは宇宙時代のチェスである。

スタートレックには通常のチェスやポーカーなど、現在の我々に馴染みの深いゲームも度々登場するが、チェス板を3次元に配置するという不思議なチェスがTOSの初めから登場している。カーク船長とスポックの対戦シーンが度々出てきたし、"Whom Gods Destroy" [TOS]では合い言葉としても登場した。このエピソードでは、"queen to queen's level 3"に対し "queen to king's level one"と答える設定であった。
TNGでは3Dチェスはあまり出てこなかったが、テンフォワード(Enterprise-Dの最前部にあるバー)には置いてあり(上の写真)、ライカー中佐はプロ級の腕前を披露している ("Menage A Troi" [TNG])。また、DS9ではシスコ司令官の部屋にも置いてある。いわばこのゲームは宇宙艦隊の伝統である。

実のところ、3Dチェスの公式ルールは存在しないらしいが、ファンが様々なルールを提供している。ここでは、最もリーズナブルと思われる Andrew Bartmess氏作成のルール(1977年)を以下に紹介する。


3Dチェスは3枚の Main Boardと、動かすことが出来る4枚の Attack Boardからなる。 最下層の Main Boardは白の駒、最上層は黒の駒を配置し、それぞれ "White's Board (W)"、 "Black's Board (B)"と呼ぶ。中層のメインボードは "Neutral Board (N)"である。


それぞれの Main Boardは図の如く2マスずつ重なっている。
ゲーム開始時はそれぞれの Attack Boardは Black's Boardと White's Boardの隅に置かれている。Attack Boardの中央には串がさしてあり、Main Boardの隅にあるピンにとめる仕組みになっている。そのため1マスだけ重なる。
クイーンを乗せたボードを
Queen's Level .... QL
キングを乗せたボードを
King's Level .... KL
と呼ぶ。開始後は決まりに従って、これらを動かすことが出来る。以後、QL/KLの略号を用いる。
駒の配置は以下の如くである。

P: Pawn(ポーン)・B: Bishop(ビショップ)・Kt: Knight(ナイト)
R: Rook(ルーク)・Q: Queen(クイーン)・K: King(キング)
(Attack Boardは離して描いている)

3Dチェスは真上から見れば理解しやすい。真上からみると、4x8のボードと付属する Attack Boardに見える。
駒の動かし方は従来のチェスと同じで、真上から見た平らなボードで動きを決定する。ただ3枚の Main Boardが重なるところでは、どのボードに着地しても良い。
ボードの重なっているところでは上下で同じ色のマス目であるから、どのレベルを選んでも問題は無い。そのため真上から見て同じ場所に複数の駒が存在することもある。



分かりやすくするため、Main Boardの列に名前を付けることにする。
白からみて、左から
●Queen's Knight File .... QKt
●Queen's Bishop File .... QB
●King's Bishop File .... KB
●King's Knight File .... KKt
と呼ぶ。それぞれの列において、白側からみて近い方から1〜8の番号を付ける。以後略号を用いる。

Attack Boardには、図のように1〜4の番号が付いている。いずれも白側から見て番号付けされる。

Attack Boardはもし上にポーン一つだけ、あるいは駒が乗っていない場合に限り最寄りのピンに移動できる。この移動は一手とカウントされる。(ピンは3枚の Main Boardの四隅にあり、上下に取り付け可能) アタックボードは強襲揚陸艦のようなもので、その気になればたった3手で駒(ポーン)を相手陣地に送り込んで戦わせる事も可能である。

ゲーム開始時の駒の動かし方にはいろいろあるが、例えば、ナイトを前に出す(イ)、ポーンを前進させる(ロ)、などという手が考えられる。
それぞれ一例として
(Kt-QB3,N) .... (イ)
(P-QKt4,W) .... (ロ)
などと表す。それぞれの意味を解説すると、(イ)は「ナイトを Queen's Bishop Fileの(白側から)3番目の Neutral Boardに着地」。(ロ)は「ポーンを Queen's Knight Fileの4番目の White Boardに着地」となる。

メインボード上のポーンを先に動かしておかないと、Attack Board上のポーンは行く手を塞がれて動く事が出来ない。しかしいったん動かせば、キング(クイーン)、ルークを動かす道が開ける。

3枚の Main Boardの四隅には、Attack Boardを固定するピンが取り付けられているが、便宜上それぞれに名前をつけることにする。
四隅のうち、クイーン側の2つを Queen's Pinsと呼び、白側を1、黒側を2とする。同じようにキング側を King's Pinsと呼ぶ。略してこれらを QP1, QP2, KP1, KP2と表す。以後この略号を用いる。(上図を参照)

QL/KLから3個の駒が出てポーンが一つだけになれば Attack Boardを動かすことが出来る。たとえば初期位置の白のQLを、
(QL-QP1, N) .... QLを Neutral BoardのQP1に移動
そしてその動かしたQLを
(QL-KP1, N) .... QLを Neutral BoardのKP1に移動
という具合に動かすことが出来る。

Attack Boardが初期位置を離れると、そのボードは取り合いになる。すなわち、例えば白の駒が乗っていたボードが黒に占領(白駒がいなくなれば、一個の黒駒で充分)された場合、そのボードの所有権は黒に移動する。その結果、黒は3つの Attack Boardを駆使することが可能となる。

もちろんその場合でも、白は同様の要領で奪回することが出来る。もしも占領が一つのポーンで行われた場合は、即移動可能となる。

空になったままの Attack Boardの所有権(移動権)は、最後の所有者にある。

3Dチェスでもキャスリング(castling)ができる。白のクイーン側キャスリングを行うにはまずクイーンを QLから降ろしておき、(K-QL1)、そして (QR-KL1)とする。これでキャスリング成立である。

真上から見て、同じ位置の異なるボード間での上下移動は認められない。3Dチェスは、あくまで真上からみた駒の配置で動きを決めなければならない。もしルークやクイーンの道筋に他の駒が存在している場合は、その駒を飛び越える事は出来ない。しかし、道筋を邪魔している駒の真上または真下のボードのマス目で一旦止まり、その後進む事は可能である。すなわち、通常のチェスの場合は道筋に相手の駒がある場合はその駒を取らないと前に進めないが、3Dチェスの場合は取る、取らないは選択出来るのである。また邪魔している駒が自分の駒の場合は、特に動かして道筋を空けなくとも、2手必要だけれども頭上を飛び越える事が出来る。

3Dチェスでは思わぬ駒からの攻撃を受けることがあるので、特にボードの影に隠れている駒の存在を常に気に留めなければならない。Attack Boardは Main Boardの四隅に付いているピンに上下どちらにも付けることが出来る。Attack Boardの位置によって相手の勘違いを導く事も出来るので、どちらに付けるかを決定するのも作戦の一部である。

古来、チェスや将棋は作戦の立案や戦闘法の研究に役立つ遊技であったが、宇宙での戦闘が現実となったスタートレックの時代において、この3Dチェスは作戦参謀たちの能力向上に役立ってきたに違いない。


Back