レプリケーター




我々が文書のコピーをとるように、24世紀の人々は原型とほとんど違わない物体のコピーを作ることが出来る。
それを可能にする装置がレプリケーターである。この技術は、一般の生活から宇宙艦隊の任務遂行に至るまで人間活動の基盤となっており、宇宙船内のように限られた空間においては特に有用となる。食物から武器まで様々な物を作り出すことができ、不要となれば消すこともできる。
Replicator sound

レプリケーター (replicators)は、無から有を創り出すものでは決してない。 これは究極の3Dプリンターのようなもので、材料となる分子の原料から必要物資を組み立てる。日常的な利用目的は食べ物であり、各クルーの部屋にはフード・ディスペンサーとも呼ばれる食物用レプリケーターが設置されている。

船内での食事は、ほとんどレプリケーターでまかなっている。Enterprise-Dには4500種類ものメニューがあり、またDS9にはベイジョーやカーデシア料理を始め、様々な種族の様々な多様な食べ物を提供できる。基地や船内には厨房は存在せず、自室の端末に音声でオーダーすれば自動販売機のように食器付きでその場で合成される。食べ終わって食器を戻せば、自動的に分解されて原料にもどる。
この時代、料理を自分で作るのは結構高級な趣味らしいが、料理するとしても食材はレプリケーターで作られることになる。

このおかげで、食材の貯蔵問題や残飯処理などを回避できることは、公衆衛生上極めて意義深い。レプリケーターが「食材」として利用する原料(原末)は、補給の際に補充されるが、場合によっては排泄物も原材料として再利用することも可能である。

レプリケーターの原理は、転送装置とほぼ同じである。原型となる対象物はスキャンされて、情報としてコンピューターに蓄積されている。原子・分子状態の原材料を利用するので、分子配列情報だけを保存すればよいのだが、それでもなお膨大なメモリーを必要とするため、メモリーの節約するために分子情報は特殊なアルゴリズムで圧縮されるので、出来上がりの細部は本物と僅かに異なる。このため味にうるさい人には不評らしい ("Sins of the Father" [TNG], "Homefront" [DS9] etc.)。

端末から要求(通常は音声で)があると必要な原料がビームになって導波管 (waveguide conduit)システムを通じて運ばれ、コンピューターのイメージにしたがってチャンバー内部で再生される。

例えばコップを作る場合、船のどこかにコップがあってそれをレプリケーターの端末まで転送するのではなく、コップの分子構造はメモリーの中にあり、それに従って組み立てるのである。分子パターンは、パターン発生回路 (pattern generator)がメモリー上の情報をもとにつくる。"Babel" [DS9]では、この回路に特殊なウイルスを混入させる装置が取り付けられていたために、DS9が大混乱に陥った。
(もしレプリケーターのコンピューターにコンピューターウイルスが侵入されたり、データ改竄等によって微量の毒物が食物やウイルスが、気づかれないように混入するように工作される恐れは常にある)

単純な分子はその場で合成されるが、食物に使う有機物(蛋白質など)は構造が複雑であるので、エネルギーとメモリー節約のため、高分子の”半完成品”を材料として保存利用しているらしい。


食べ物以外にもレプリケーターは大いに活躍する。

TNGでは結婚の贈答品を作るためのレプリケーター(replicating center)などが出てきたことはあるが ("Data's Day" [TNG])、工作・工業用利用についての言及は少なかった。もちろん Enterprise-Dでも大いに使用されていることは疑いようがないのだが、DS9になってからは食物以外への利用が頻繁に聞かれるようになった。映像には出てこないが、巨大な宇宙基地だけあって相当大きな多目的レプリケーターがあるようだ。

連邦のレプリケーション技術水準は高いらしく、カーデシアへ大型のレプリケーター (industrial replicators)を提供するほどである ("For the Cause" [DS9])。ベイジョーにもカーデシア軍撤退後に同様の装置が2台贈与されている。戦略的に極めて重要な装置であることがうかがえる。

これらの装置は、連邦の標準装備品などは言うにおよばないが、見たこともない装置でもスキャナーと連動してコピーを作ることができる。ガンマ宇宙域の未知のテクノロジーであっても、多少時間はかかるが問題なく複製できるようだ ("Captive Pursuit" [DS9])。

また完全な設計図があれば、そのデータをもとに何でも作成できる。シスコ司令官が設計した怪しげな時計を設計図を基に作ったこともある ("Dramatis Personae" [DS9])し、その気になれば USS Defiantでさえも設計図から作ることが可能らしい ("Shattered Mirror" [DS9])。この時代の造船の現場は、一体どのようになっているのだろうか。
とにかく「コンピューターに作らせる」という会話が出てくるときには、レプリケーターを意味していると思って差し支えないだろう。大きな物(船など)を作る場合は、多くの小さなユニットに分割して組み立てる必要があるだろうが、Enterprise-Dのような大きな船でも、もしも巨大なレプリケーターが用意できれば原理的には作ることが可能のはずである。

この場合、制作費用は金属や樹脂類などの原材料とエネルギーにかかる費用だけであり、もはや現代のような意味の下請けなどは不要であるし、またコストを押し上げる歩留まりもほとんど存在しない。素材の分子構造にしても、理論的に考えて理想の新素材をいくらでも試すことが可能である。
このようなわけで、現在のような物作りの経済というのは考えにくいように思われる。

このように万能なレプリケーターであるが、それではデータ少佐は機械(アンドロイド)なので複製出来るだろうか。 結論的には(24世紀の技術では)不可能だろう。

”生きている”ということは、電流や化学反応などの生命システムが円滑に機能している状態である。データ少佐は機械ではあるが、紛れもなく生きている。生命活動を行っているものの複製をするためには、転送のように量子レベルまで複写をする必要がある。転送の場合はコンピューターのメモリーを介さず、phased matterの状態で蓄えられるので量子レベルの情報が失われないのだが、レプリケーターはパターンをメモリーから引き出す方式なので技術的に無理がある。量子レベルの情報というものは、元来ビットで表される種類のものではない。

データやローア(データの兄)のような Soong-type(Soong博士はデータを創り上げた超天才科学者)のアンドロイドは、陽電子頭脳 (positronic brains)を持つ。これは普通のコンピュータとは違い、非常に精密で原子レベルを超えて機能しており、その意味で現実の生命体に近い。少佐の記憶をいったんコンピューターに退避して、その間に少佐を複製し、その後記憶を戻すことはできるが、記憶さえ戻せば全く同じ状態に戻せるという保証は無く、厳密な意味での我々が知っている「あのデータ」はおそらく還ってはこないだろう。

★ レプリケーターと転送装置は似ているので混同しがちなので、もう一度整理してみる。

転送は Annular Confinement Beam(ACB)によって対象物をスキャンしながら分解する。分解された物質は phased matterというエネルギーと物質の中間体のような状態に転換されて送られる。この場合はコンピューターのメモリーに蓄積されるのではない。【転送の項を参照

一方レプリケーターの場合は分解を伴わない。すべてコンピューターのメモリー上にあるパターンに従って、原材料を調合して複製品を作る。よって転送では複製を作ることは出来ないが、レプリケーターはいくらでも複製を作ることが可能である。

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