転送装置





Transporter sound

現代では、物を運ぶには車輌や航空機(宇宙船)などの移動手段が用いられる。24世紀に於いても長距離輸送(惑星・恒星間)や、近距離輸送には乗り物が用いられるが、緊急を要する場合や中距離輸送(都市間や地表・宇宙船間など)には転送という技術が用いられる事が多い。この『転送』 (transport)という単語は、スタートレックでは特殊な意味合いを持つ。

一口で言えば、物質を非物質化して転送ビームに乗せて遠隔地に送り、受信地点で再び物質化(実体化)するというものである。貨物ばかりか、人間でさえ生きたままで一瞬に送ることができる。この技術のおかげで、惑星上陸任務などの場合でも大気圏突入などの不快な過程を経ずして、人員や物資を惑星上に送ることができる。また地表から母船に戻る場合、どこに居ようと、いつでも帰還できる。シャトルの着陸地点に戻る必要がないのは大変有利である。しかしその一方で、容易に誘拐されかねないという危険性を孕んでいる ("When The Bough Breaks" [TNG] etc.)。

この技術は22世紀に開発されたが、当然のことながら初めは人体に使うのはためらわれた。人体に最初に実戦で使われたのは Enterprise号で、アーチャー船長救出の際に用いられた ("Broken Bow" [ENT])。

転送には通常Transporter(転送装置)が用いられる。
まず Annular Confinement Beam(転送ビーム、ACB)というビームがスポットライトのように対象物を照らして目標をとらえる。捕捉された物体は 位相変換コイル (phase transition coil)の働きにより、フェーズド・マター (phased matter, エネルギー状態に近いもの)に分解される。その フェーズド・マターの流れ(matter stream)は パターン・バッファー (pattern buffer)に蓄えられ、その後船殻にある放射器(アンテナ)から送られ、目的地でACBが再び物質化させる。

ACBは転送する物体を捕捉し、何を転送し何を転送しないのかを認識すると同時に、転送のキャリアー(搬送波)として フェーズド・マターを目的地に漏らさず送る媒体となる。

この最初のプロセス、すなわち目標を捕捉(ロック)できるかどうかが転送が成功するかどうかの重要な鍵となる。もし目標までの空間のどこかに何らかの障害があって、ACBが予備的に対象物をスキャンした結果に情報の欠落が発見されれば、「転送ロックができない」ということになる。

ACBは宇宙船殻や建物は透過するが、限界がある。上空から地下深くへ転送するために、フェイザーで地面に穴を空けたこともある。2Km厚くらいの花崗岩盤くらいならば転送可能のようである ("Legacy" [TNG])。どうしてもシグナルが弱くなる場合は、パターン強化装置 (pattern enhancer)が用いられることもある ("Inheritance" [TNG] etc.)。

その逆に、転送抑制装置 (transporter inhibitor)で作られたフィールドの内部にいればACBが正常に貫通できなくなり、勝手な転送誘拐を妨害することができる (ST 9 etc.)。【通常の防御シールドと違って、この装置は要するに妨害電波発生装置なので、小型で持ち運びも容易である。いざというときに誘拐されないためにも、本来ならば宇宙艦隊士官の標準装備とすべきものではないだろうか】

ACBによるスキャンで自動的に転送物を判断出来るが、オペレーターがさらに手動で選別・細工することもできる。たとえば、履いている靴だけを地上に置き去りにして船に戻ったり、転送中に武器の安全装置を入れたりすることもできる ("The Most Toys" [TNG])。そればかりか、変質したDNAを正常のDNAと入れ替えるために転送装置が用いられた事すらある ("Unnatural Selection" [TNG], "Rascals" [TNG])。

パターン・バッファーはサイクロトロンに似たタンクである。そのなかでフェーズド・マターは転送途中でぐるぐる回りながら蓄えられる。コンピューターは、流れのどの部分が物体のどの部分に対応するかというパターン情報を把握する。

量子力学の根幹をなす「ハイゼンベルクの不確定性原理」によれば、素粒子の場所と運動量を同時に正確に知ることはできない。もし場所を特定しようとすれば運動量が不確かになり、運動量を知ろうとすれば場所が不確かになる。Heisenberg compensatorは不確定性原理を乗り越えて、場所と運動量を同時に正確に知るための装置である(動作原理は不明)。これにより、フェーズド・マターに転送物体の「全ての情報」を持たせることができる。
【貨物を転送するのであればさほど問題は無いが、生命活動を行っているものを無事に転送するためには、動態(血流、電流など)情報を正確に伝えなければ「いのち」を転送することは出来ない。個々の電子等の動き(ベクトル情報)を量子レベルにまで正確に把握することは、「ハイゼンベルクの不確定性原理」と矛盾する。これは測定する行為によって不確定になるのではなく、最初から原理的に不確定なのである。これを乗り越えるのは並大抵でなない。基礎的な用語の解説を参照】

検疫上重要なバイオフィルター (biofilter)は、転送時のパターン解析をして、通常認められないウイルスや細菌類などを発見する。そして実体化の時、それらを消去することが出来る。


TNG Tech Manualに拠ると、実体化が不可能になるほどにパターンが失われるまでの限界は420秒である。その間フェーズド・マターはパターン・バッファーrの中で保存される。"Realm of Fear"[TNG]では、この限界に挑んでいる。旧式の転送装置では、この段階で、僅かな情報が抜け落ちる事故が時々起こったらしい。転送神経症 (transporter psychosis)と呼ばれる運動・感覚・精神異常が23世紀に報告されている。24世紀になって、多重パターン・バッファー (multiplex pattern buffer)が開発されてこの問題は解決され、転送は最も安全な輸送手段と認識されるまでになった ("Realm of Fear"[TNG])。

しかしその旧式の転送装置でも、分析モード(diagnostic loop)に固定することにより、75年経った後でも実に0.003%のパターン損失で済むことがわかった("Relics"[TNG])。この手法でスコット大佐は見事24世紀に蘇った!スコットは、日本語版ではチャーリーと呼ばれていた機関部主任。余談ながら、当時は少佐だったが最後は大佐で退役。彼ほどの人物ならば当然提督になれるはずだったろうが、よほど技術以外に欲の無い人なのだろう】

"Realm of Fear"[TNG]では転送中に行方不明になったクルーが、フェーズド・マターのまま赤色巨星のプラズマ雲に閉じこめられた。この雲の中で転送を強行した Enterprise-Dのクルーは、転送中に「怪物を見た」と主張した。結局この怪物は雲の中に蓄えられた行方不明のクルーが変形して見えたものであった。おそらくプラズマが ACBの代わりとなり、フェーズド・マターが蓄えられていたのであろう。

物が瞬間的に出現したり消滅したりすれば、当然壊滅的な大爆発を伴う。しかし通常は転送にかなりの時間をかけているので(数秒間)、その間に徐々に空気を押しやるものと考えられる。もし誤って岩盤の中に転送されようとしても、この段階で異常を察知できる。転送に時間をかけられない場合は、転送元の物体と転送先の空気の入れ替え転送を強行する必要があるだろう。

惑星表面への転送など、転送先には転送装置の無い場合が多い。TNG Tech Manualによれば、Enterprise-Dの船殻のいたるところに放射装置(いわゆるアンテナ)がある。ここから遠距離仮想焦点分子スキャナーが対象を捕捉し、遠隔転送(分解、再構成)を可能にする。その助けでACBは船から正確に照準を合わせることができるが、やはり転送距離に制限がある(TNG時代 40,000 km以下)。

このように転送先に転送装置が無くても転送は可能だが、受信、送信側ともに転送装置があれば両者のパターン・バッファーを同期させる事が可能となり、また一台の転送装置が送受信両方を受け持つ必要が無くなるため、負担は減少して安定性が増す。

しかし転送装置を2台使うことが裏目に出ることもある。
一作目の映画Star Trekでは、バルカン人の技術士官が Enterpriseに搭乗する際に、転送事故で死亡している。受信側(Enterprise)の転送装置がパワーダウンした場合転送パターンを維持できなくなり、最悪の場合パターン崩壊する。実体化しつつある時にリンクが切れたため、Enterpriseは転送シグナルを艦隊本部に送り返したのだが、間に合わなかった。

また、転送元、転送先ともに転送装置以外の場所を指定することも可能である。例えば船内で、瀕死の重傷患者が発生した場合に医療室の処置ベッド上に転送するなど、である。この場合、一台の転送装置を経由地点にして直接転送(direct transport)するため安定性に問題があり、通常の転送に比べて大量のエネルギーを消費するので緊急時にのみ行われる ("Brothers" [TNG]、"The Game" [TNG])。この転送方法は、TOS時代には非常に危険な方法と考えられていた ("Day of the Dove" [TOS])。

転送装置を使って物体の複製を作る事は出来ない。転送シグナルは単なる情報を含むだけでなく、フェーズド・マターとして物体そのものを運んでいるので、2回送信する事は出来ない(転送波を反転し、一度フェーズド・マターを回収した後ならば可能であるが)。"Second Chances" [TNG]において、8年前の転送事故でライカー副長の複製が出来てしまったことになっている。「一度転送シグナルを送ったが、届かなかったと判断し、もう一度送ったが、惑星を覆っていたシールドに2回目のシグナルが反射して戻ってきた。それが実体化してもう一人のライカーを作ってしまった」となっているが、これはシナリオライターの理解が足りなかったためで、理屈上は起こり得ない。しかし話としてはとても面白い。

転送される対象は、通常パターン・バッファーの内部で安定的に保管されるが、Voyagerでは何と貨物室そのものを保管庫として使用したことがある。どうやったかは不明だが、短時間ながらも広大な貨物室全体に、数十名もの人々のパターンの拡散・閉じ込めに成功している ("Counterpoint" [VGR])。

"Bloodlines"[TNG]では、亜空間搬送波を用いた転送理論が議論されている。宇宙連邦でも以前研究されたのだが、中止されている。転送可能距離は、3000億キロ以上、数光年にも及ぶ。この方法だとシールドを抜ける事も可能らしいが、量子流動 (quantum flux)に陥る危険性が高く、極めて不安定で危険である。【タイムワープ:因果律問題を参照】

一般に、防御シールドを通して転送は出来ない。
しかし、シールドはセンサーなどのエネルギーは透過させなければならない。保安上の理由からシールドの周波数は定期的に変化させており、それに合わせてセンサーは同調させている。逆に言えば、同調さえ出来れば外部からの転送も可能ということである。そうなれば爆弾を船内に転送することもできる。また周波数変更の時に、1/50秒だけシールドの切れ目ができることがあり、その間に転送可能になる場合もある ("The Wounded" [TNG])。但しこれを実行するには、目標物を予めフェーズド・マターに分解して待機した状態からでないと、間に合わないだろう。

Galaxy級の船は乗員用として4、貨物用に8、緊急用に8つの転送装置を備えている。乗員用は量子レベルまで転送出来るようになっているが、貨物用は分子レベルまでである。量子レベルにまで設定は可能だが、転送出来る量が著しく少なくなってしまう。

転送を安全に実行するためには送信側・受信側ともに静止状態であることが望ましいが、もしワープ中の場合は両者の速度を正確に一致させる必要がある。



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