遮蔽装置




遮蔽装置 (Cloaking Device)はロミュランの発明によるもので、いわばお家芸でもある。ロミュランは、惑星連邦が結成される以前からその開発に成功していた。

22世紀にロミュランと地球との間で戦争があった (Romulan War)。戦いの詳しい内容は不明だが、核兵器が大量に用いられた凄惨なものだったらしい。結局地球側が Cheronの戦いで勝利してロミュラン側は降伏した(2160年)。この時締結されたアルジェオン条約(Treaty of Algeron)の中で惑星連邦・地球は平和を尊ぶ精神から、遮蔽装置の開発をしないことを確約したのであった。(戦力的に圧倒的な差がある場合にはこのような条約も納得できるが、両者の戦力は拮抗しており、理解に苦しむ条約内容ではある)

ところがその後、クリンゴンとロミュランの間で交易が始まり、クリンゴンとロミュランは互いの技術を交換し、その結果連邦の宿敵クリンゴンまでもが遮蔽技術を手に入れてしまった(2263年)。その後キトマー会議でクリンゴンと連邦は同盟したが (ST6)、連邦側はそのまま条約を守っている。

宇宙艦隊は遮蔽装置を正式採用はしていない。とはいえ、対抗策の開発のために必須であるから、秘密裏に開発しているが、遮蔽装置の開発は主としてロミュランとクリンゴンの手で行われてきた。しかし現実には後発の強みか、遮蔽技術の研究においては連邦が一歩リードしているようである。

開発の歴史を以下に示す。

<第1世代>
初期のウォーバードにのみ搭載。可視光、赤外、紫外線および通常の電磁波を遮蔽した。遮蔽プロセスは迅速であったが、大変なエネルギーを必要とした。

<第2世代>
高エネルギーのガンマ線以外の電磁波を全て遮蔽出来るようになった。迅速に遮蔽出来たが、やはり効率が非常に悪かった。ロミュラン偵察機やウォーバード、クリンゴンのD7巡洋艦などに搭載。第1・第2世代は、遮蔽原理は電磁波を用いる方法(恐らくは逆位相電磁波)だったらしい。

<第3世代>
これ以降、重力レンズ効果(説明は下記)を用いるようになった。初期のプロトタイプでは、遮蔽シールドの内側に熱が蓄積するという問題に直面した。この問題はその後、艦をグリーンに塗装する事により解決された。そうすることにより、熱を非常にゆっくりと相手に気づかれないように遮蔽シールドの外へ逃がすことが出来たのである。現在でも遮蔽可能な船艦にはグリーン塗装が通常施工される。この第3世代は球状遮蔽 (spherical cloaking)のみであり、表面遮蔽 (wavemapped cloaking)は出来なかったようだ。遮蔽プロセスは迅速ではなく時間がかかったが、ロミュランとクリンゴンの殆どの船に搭載された。

<第3.1世代>
球状遮蔽のプロセスが迅速になり、表面遮蔽も可能となった。クリンゴンD−7巡洋艦に搭載された。グリーン塗装はまだ必要だった。

<第3.2世代>
クリンゴンの開発による遮蔽装置で、極めて精密な遮蔽性能を持つ。しかし非常に大容量のパワーリザーバーを必要とした。開発後も、旧タイプは依然使われていた。

<第3.2a世代>
3.2世代をロミュランが改良した方式。このタイプからは船をグリーンに塗装しなくともよくなったが、塗装したほうが効率は良かったらしい。ロミュランとクリンゴンの双方とも好んで使用した。

<第3.3世代>
現在用いられている遮蔽装置の最新バージョンである。表面遮蔽の解除が迅速となった。知られうる限りでは、ロミュランのみが使用している。

<第4世代>
実験的なバージョンで、表面遮蔽が極めて緻密で周囲空間の歪みが極めて少なく、探査機の走査を受けても探知されにくくなっている。このタイプの遮蔽を探知するには、事実上タキオン探知網 (tachyon detection grids)以外には無い。

<第5世代>??
遮蔽機能と、物質波位相同期装置 (interphase generator)を組み合わせた位相遮蔽装置 (phased cloaking device)で、このシールドで包まれた物体は任意の物体と衝突することなくすり抜ける事が出来る(!)。ロミュラン、惑星連邦ともプロトタイプを保有している ("The Next Phase" [TNG], "The Pegasus" [TNG])。【物質波とは素粒子などが持つ量子力学的特性の一つ。量子力学によれば、波長を調節すれば通り抜けが可能なのだという。超電導による「ジョセフソン素子」などはそれを利用した新技術だ。しかし位相同期した人間や機械が正常に機能出来るのかは極めて怪しい】
このタイプの装置はクロニトン粒子(chroniton particles)という素粒子を副産物として発生するが、特殊な励起状態に置かれると、時空の歪みを誘発する事がある ("The Next Phase" [TNG], "Past Tense" [DS9])。

(TOSは第1・2世代、映画(ST1〜6)では第2〜3.2世代、TNGでは第3.3世代以降と思われる)

遮蔽装置は、宇宙船艦などの物体を見えなくする装置である。目に見えなくするばかりではなく、あらゆるセンサーにも感知されないようにしなければ効果がうすい。

これは主として(第3世代以降)『重力レンズ』効果を利用したものである。重力レンズとは、強い重力場によって光の進路を曲がる現象である。これはアインシュタインの一般相対性理論の重要な予言の一つであり、20世紀初頭に天体観測によってその正しさが証明されている。通常は恒星やブラックホール周囲の重力場をかすめる光が曲がるのだが(これは自然現象)、この場合は遮蔽シールドに突入した光(電磁波)をシールドに沿って人為的に誘導し、反対側で再び宇宙空間に放つものと考えられる。その結果、あたかも光は素通りしたように見える。

遮蔽シールドは防御シールドと同じように強い重力波で作られるのだが、防御シールドと違って「シールドの存在そのものも、敵に察知されてはならない」のである。防御シールドの場合は、攻撃を受けるとそのエネルギーや粒子を単に跳ね返したり拡散させたりするだけなので、シールドの存在が空間を弯曲させていることが直ぐに知れてしまう。【防御シールドの項を参照】

遮蔽シールドは入射したエネルギーや物質を『正確に』シールドの反対側に誘導し、再び正確な位置と角度で空間に放つ必要がある。そうでなければ背景の星の位置がずれて観測されてしまうであろう。そうなれば位置が知れてしまう。

船から漏れる電磁波や放射線は、エネルギーを失うまで何度でもシールド面や船殻で反射し続けることになる。いわば魔法瓶に入ったようなものである。ロミュラン艦に代表されるグリーン塗装は、効率良いエネルギー損失を出すために有効であるらしい(上述)。

このようなとてつもない装置であるので、膨大なエネルギーを必要とする。場合によっては全艦のエネルギーの約半分が必要であるという。そのため通常の防御シールドと違って、強い攻撃をかわす能力は無い。近傍で光子魚雷などが炸裂すれば、遮蔽を解かなければならない ("Redemption" [TNG] etc.)。

防御シールドは攻撃を受けた場合、それに対抗するだけのエネルギーが集中する原理なので、普段はそれほどエネルギーを要しない。ところが遮蔽シールドの場合は常に時空の歪みが周囲に悟られないように調節を怠る事が出来ないので、持続的に膨大なエネルギーを消費する。【この膨大な消費エネルギーを何処へ逃がすのかは不明。グリーン塗装だけでは不十分で、亜空間経由で遠隔地へ逃がすという意見もあるようだが、この場合はテトリオン放射が敵に察知されないような工夫が必要であろう -- 亜空間の項を参照】


前述したように、遮蔽方式は大きくは「球状遮蔽」(spherical cloaking)と「表面遮蔽」(wavemapped cloaking)の2種類に分類される。

<球状遮蔽>
船を球状のシールドで包む方法。主としてワープ航行中に用いるもので、ワープエンジンが作るワープフィールドを大きく包んで隠密航行を可能にする。一般にこの方式は表面遮蔽よりも簡単で、作働・解除も迅速だが、遮蔽精度が低く、そっと敵の近くに忍び寄るには不適当である。

<表面遮蔽>
静止状態または通常エンジンによる航行中に用いられる方法。シールドは船殻から一定の距離で発生し、船に沿った形になる。船殻から僅か数センチメートル以下の距離に発生させることも出来るらしい。遮蔽システムは、船の各部位から漏れる電磁波や放射線を精密にモニターして、常に表面近傍のシールド面で処理する。船が大きければ大きいほどエネルギー消費量も増え、管理するコンピューターの負担は増えて行く。そのため通常、遮蔽装置には専用のコンピューターが使われる。

この方式は接近戦で用いる事が多く、相手に重力波の存在が知れては意味がないので、シールドそのものから「はみ出た分」を重力波干渉によって打ち消しておかねばならない。

この方式ならば、もし遮蔽した敵が静止していれば数メートル隣にいても気が付かないであろう。しかし、もしも通常エンジンで航行(推進ノズルの場所だけシールドを解除)すれば、残留イオンを追跡することにより位置を割り出すことは十分に可能である (ST6, "Face Of The Enemy" [TNG])。

この遮蔽方法は極めて有効な完成度の高いものであるが、船体を真空パックで包むような形となるので、シールドが不安定になると船体に異常な捻れが加わる恐れがあり、非常に危険でもある。また遮蔽プロセスに時間がかかるため、その間に攻撃を許してしまう場合が多い。


遮蔽している間は原則として自ら攻撃をしかける事は出来ない。通常の防御シールドの場合は、フェイザー等の波長をシールドと同期することにより使用可能であるが、遮蔽シールドの場合は簡単ではないようである。そのため、遮蔽中の攻撃は一撃のみが多いが、相手は油断しているので極めて有効な一撃といえるだろう (ST6, "The Chase" [TNG])。

センサーについては、当然走査ビームを送信することは出来ない(遮蔽が無意味になる)が、受信はできるので、相手の情報を得ることは可能。

遮蔽技術の進歩により、遮蔽船の検知は次第に困難となってきている。第2世代まではエンジンやパワージェネレーターから漏れるガンマ線を探知すれば良かったが、第3(or 3.2 ?)世代以降は通常のセンサーでは発見不能となってしまった。最新の遮蔽を感知するには、ラ・フォージ少佐らが提唱した『タキオン探知網』 (tachyon detection grids)が唯一の有効な手段である ("Redemption" [TNG]) 。

タキオン探知網は広い範囲をカバーすることは出来ない。遮蔽艦が通過すると思われる宙域を少なくとも20隻以上の船でリング状に囲み、タキオンビーム(超光速ビーム)を互いに送・受信してビームのネットを張る。詳細は不明だが、一説によれば、互いのビームの波長を微妙に変えてあり、かつ正確に同一線上に両方のビームが乗るようにする。すると干渉により2つの周波数の和または差のビームが得られるが(ヘテロダイン受信機の原理)、線上を遮蔽シールドが通過すると、干渉に微妙な変化が出るらしい。異常が出た探知線の交点に敵艦がいる、というわけである。通常の電磁波は騙せるが、タキオンは騙せないということだろうか。
【タキオンを用いなくとも、パルスレーザーを用いれば、シールドを通過する際に強い重力場で発生する相対論的時間の遅れを計測出来るような気もする ‥‥】

宇宙艦隊は、平和的理念とロミュランとの紛争回避という見地から、遮蔽装置の採用が出来ず(USS Defiantは例外)にいる。しかしこのままでは、遮蔽艦がますます有利となる事は確実である。遮蔽装置を搭載せずに戦力を互角に維持するためには、簡便で長距離スキャンが出来る検知センサーシステムの確立が必須であろう。

ガンマ宇宙域の覇者ドミニオンは、最新式の遮蔽装置をも見破る方法をすでに持っていた。戦闘部隊ジェムハダー (Jem'Hadar)の宇宙船は反陽子ビームで遮蔽したUSS Defiantをスキャンして発見した ("The Search" [DS9])。しかしながら連邦やカーデシアは反陽子ビームを発射する事はもちろん出来るのだが、何をモニターすれば良いのかは分からないようだ ("Defiant" [DS9])。


Back