基礎的な用語の解説



ここでは、スタートレック時代の科学技術を理解する上で必要不可欠な基礎的な科学用語を簡単に解説します。エピソードを理解する上で必要と思われるものを選びました。

相対性理論

20世紀初頭にアインシュタインが発表した物理理論。特殊相対性理論 (1905)と一般相対性理論 (1915)がある。前者は等速運動している慣性系、後者は重力場や加速度系の理論である。

特殊相対性理論は主として、いかなる時でも光の速度は不変である(光速度不変の法則)、という大前提をもとに構築されている。

つまり、たとえ光速に近い速度で飛んでいる宇宙船から光を前方に発射しても、その光の速度は宇宙船の速度を加算されずに、やはり光速のままということになる。宇宙船に乗っている人からみても、それを遠くから観測している人から見ても同じなのである。このような現象は、卑近な常識では説明できない。観測者に依らず光速が不変などと仮定すれば、物理現象に奇妙さが伴うだろうことは、だれでも想像がつく。アインシュタインは宇宙を「縦」「横」「高さ」の3次元に「時間」という次元を加えた合計4次元(時空連続体)で、様々な物理事象を説明しようとした。時間と空間は数学的には同様の価値を持つ座標軸であり、互いに関連していると考える。

特殊相対性理論は「いかなる物体も光速以上の速度に加速する事は不可能である」と主張する。光速に近づけば近づくほど物体は重くなり、加速されにくくなる。もし光速の99%まで加速すると、重さは7倍以上になってしまうのである。しかも、もっと奇妙なことに「時間」の進み方は地上の観測者に対して7倍遅くなる。これが世に有名な「ウラシマ効果」である。但し、これらの現象は我々の生活レベルでは体験できない。

重量と慣性質量は同じである、といういわゆる「等価原理」を基にした一般相対性理論では、例えば太陽のまわりを公転する地球の運動は遠心力と重力の釣り合いで維持される、というニュートン力学とは異なり、太陽の存在そのものが時空を弯曲させており、そこでは「直進しようとしても曲がった軌道をとらざるを得ないので、仕方なく太陽の周りを回ってしまう」と考える。この時回転している地球は重力波を僅かづつ放出しているという。(重力波は2016年に存在が確かめられた)

驚くべき理論だが、多くの実験や天文観測で相対性理論の正しさはほぼ証明済みである。原子力を簡潔に表現した、有名なE=mc2もこの理論から得られる。現在のところ信ずるに値する理論である。

● 相対性理論によれば宇宙船が超光速で飛行することは不可能であるが、2061年、Zefram Cochraneは宇宙で最も偉大な発明をする。彼は、亜空間で宇宙船を包むことによって相対性理論の制約をクリアーした。【ワープエンジン亜空間の項を参照】


ブラックホール

一般相対性理論を発展的に解釈していくと、極端に密度が高くて重い天体の周囲は空間が強度に弯曲して、光さえも脱出出来ない底なし沼状態になる(特異点)ことが予測される。しかしここでは空間の曲率が無限大になるため、一般相対性理論から出てきた結論にもかかわらず、理論が破綻してしまうという矛盾をも孕んでいる。このような「ブラックホール」は、我々の銀河系の中心部などをはじめ、既に多くの候補天体が発見されている。

ブラックホールに落ち込むと二度と通常宇宙には戻れないと予想されるが、一般相対性理論によれば、ブラックホールとは逆に何もかも吐き出す『ホワイトホール』の存在も方程式の解として得られる。ブラックホールとホワイトホールが繋がっており、うまくブラックホールを通り抜ければホワイトホールから別の場所や別の宇宙に出られるとする考え方もある。しかし、ワームホールというのはこの考え方とは少し異なる。【ワームホールの項を参照】

● DS9では、時空を超えた超生命体が、7万光年離れたガンマ宇宙域に繋がるワームホールを人工的に作ったことになっている。ワームホールを上手に通ると、極めて短時間で対岸に着ける。また戻ることも同様に可能だ。7万光年は、Warp9でも約47年もかかる距離である。


宇宙ひも

宇宙の起源を探る理論の一つである『大統一理論(GUT)』は、ビッグバンの後宇宙が冷える過程でちょっとした傷が出来た筈である、と予言している。最も有名なものはモノポール(磁気単極子)であるが、ひも状の(宇宙ひも)存在も議論されている。これは物質ではない。とてつもなく細い「空間のひび割れ」である。僅か数メートルでも恒星にも匹敵するとてつもない重さを持ち、その周囲は空間が“欠損”しているため、宇宙ひもの周囲では円周率(π)が 小さいといわれる。すなわち、直径1メートルの円を描くと我々の宇宙では円周は 3.141592...メートルであるが、宇宙ひもの断面の周囲では 2メートルしかないかもしれない。

● 20世紀現在では発見されていないが、Enterprise-Dは宇宙ひも発見し、2次元生物と遭遇した。その影響で、カウンセラー・トロイはテレパシー能力を一時的に失った ("The Loss"[TNG])。

● ST7: Generations に出てくる謎の超時空ひも『ネクサス』は、この宇宙ひもをイメージしたものと思われる。


量子力学

素粒子などのミクロの世界を扱う理論。相対性理論のように個人が作り上げたものではなく、多くの天才たちが構築していった。一つの論文ではなくて、関連した分野を含めた総称である。その分量は膨大なものである。

エネルギーなどの基本的物理量が連続したものではなく、飛び飛びの値しかとらない、と主張したため、当時大変な批判にさらされた。20世紀以前の物理学では考えられない大胆な考え方であった。黒体輻射の研究をしているうちに、図らずも量子力学の幕を開いてしまったプランク教授は、皮肉にも保守的な人で、彼の名は栄光に包まれたにもかかわらず量子力学にかかわったことを生涯後悔していたという。

量子力学によれば、エネルギーは「量子」という最小単位以下には分解できない。このように考えると、驚くほど正確に、美しく現象を説明・予測できることがわかった。現在のエレクトロニクスは、100%量子力学の賜と言っても過言ではない。

現在では、長さ、時間にも最小単位があるといわれており、それぞれプランク長、プランク時間と呼ぶ。


不確定性原理

量子力学は、単に「エネルギーの値がデジタル的」というだけでは、デジタル時代に生きる我々にとって受け入れることはさほど難しくは無い。しかし、本当の神髄は不確定性原理であり、これは容易には受け入れ難いのである。

1927年、若きハイゼンベルクが行き着いた結論は、「ミクロの世界では位置と速度(運動量)を同時に正確に知る事は不可能」というものであった。例えば、ある電子の位置を知ろうと観測すると、観測によって速度が変化して真実を知ることが出来ず、また速度を観測しようとすれば電子がどこにあるのか分からなくなる、という欲求不満で頭が変になりそうな原理である。天気予報のように、確率(電子雲)でしか電子の位置を示す事ができないのである。(近年、東北大学の小澤正直教授による「小澤の不等式」というものが発表され、理解の仕方に変化が出てきてはいる)

では、測定さえしなければ位置と速度は決まっているのだろうか。『我々には知り得ないが、神様は御存じさ』と言いたいところである。しかし、無情にも「神様にもわからない」、というのが結論なのだ。「測定しようとすればわからなくなるが、測定しなければもっとわからない」ということになる。このような議論は、「実在」というものの根元的意味を問いかけるもので、常識的な人間には到底付いて行けない。これは現在でも哲学論争の材料となっている。アインシュタインが死ぬまで抵抗したことは良く知られている。

また、量子力学では「観測者の存在」というものが、決定的に大きな意味を持つ。詳細には触れないが、有名な「ファインマンの2重スリット」の思考実験は実に興味深い。ファインマン博士によれば、この思考実験は量子力学の謎のすべてを含んでいるという。すなわち、「針穴が2つ開いた金属板に電子ビームをあてると、通常は向こう側に置いたスクリーンに干渉模様が映る。しかし、もし電子の行方が我々が観測できるように金属板とスクリーンの間に光源を置くと、干渉模様が消えてただのスポットになってしまうであろう」というものだ。すなわち干渉模様を呈して波動として振る舞っていた電子が、『観測』によって粒子になってしまうということで、これは極めて哲学的な深い意味を持つ。考えれば考えるほど深みに陥る問題だが、近年正しいことが実験的に確認されている。

以上のように常識では受け入れ難い理論だが、なぜか実験観測とよく合うから認めざるを得ない。現実にはエレクトロニクスを始め現代生活は量子力学にどっぷり浸かっており、量子力学/不確定性原理無しには夜も開けない。江崎玲於奈先生だってノーベル賞を貰えなかったし、パソコンやインターネットだって存在できない。

● スタートレックに出てくる転送装置には不確定性原理をキャンセルする「Heisenberg Compensator」が付属している。これが無ければ、我々を生きたまま転送することは不可能である。しかしながら、神様にも出来ない事を人間がやって除けるのは難しいと思う。【転送の項を参照】

● 宇宙船の姿を隠す遮蔽装置 (Cloaking Device)の発展型では、原子の持つ波動(物質波)の位相を自由に変える事ができる。これにより壁の通り抜けも可能になるらしい ("The Next Phase"[TNG], "Pegasus"[TNG])。【遮蔽装置の項を参照】

● 24世紀の科学技術が実現するためには、量子力学の大幅な修正が必要となる。

● TNG以降、量子力学を駆使したエピソードが多くなったので、是非とも親しんでおく必要がある。"Parallels"[TNG]は典型的な例で、Enterprise-Dそのものが不確定な存在になってしまった。


タキオン粒子

光速よりも早く移動できる粒子。亜空間ではなく、通常空間での存在を仮定されているので、特殊相対性理論の制約を受ける。但し数学的トリックを使っており、タキオンを使って情報を発信し、何らかの手段でその情報が帰って来ると、情報は過去に帰ってくるのだという。架空の粒子であるが、もし存在すれば因果律を壊すような結末が予想される。

● TNGでは、遮蔽された宇宙船を暴くための有効な手段として登場する ("Redemption"[TNG])。【遮蔽装置の項を参照】

● ボーグが作ったトランスワープ・チューブ (Transwarp Conduit)の入り口を開ける為に、低周波タキオンパルスが用いられた ("Descent"[TNG])。

● 『逆タキオンパルス』(これは意味不明)は時空に極めて深刻な亀裂を作り、しかも時間を逆行してその亀裂は大きくなる("All Good Things.."[TNG])。


グラヴィトン(重力子、重力量子)

TNG以降、最も頻繁に出てくる用語のひとつ。重力を媒介する素粒子である。 光子はミクロの世界では電磁気力を媒介する粒子として活躍している。それと同じように、物体の間でグラヴィトンをキャッチボールのように交換することによって、重力が発生すると考えられている。現在は未発見であるが、最近の物理理論は存在を予言している。

グラヴィトンは単に重力の伝達をするだけではなく、別の宇宙との唯一の通信手段とも言われる。そこにも生命が存在する可能性は十分にあるが、たとえ「近く」にいても互いの存在すら見い出すことは困難だが、重力のみがかろうじて作用し合う。従って、情報を伝えるにはグラヴィトンによる通信しか無いらしい。

● スタートレックではグラヴィトンを光のように手軽に発生させ、しかもレーザーのように位相の揃った良質のエネルギー流として使用できる。シールドやトラクタービームはその代表的な用途である。【シールドの項を参照

● 未知の生命体と通常の通信手段で交信が不可能である場合、グラヴィトンによる通信を行う場合がある。謎の宇宙水晶体 ("Silicon Avatar" [TNG])や2次元生命体 ("The Loss"[TNG])との交信に有効であった。

● 重力場と亜空間場とは、空間を弯曲させるという意味では似ているが、互いに抑制的に作用する。亜空間場の発生・拡張はグラヴィトン照射によって抑える事が出来る ("Schisms"[TNG])。同じ理由でワープエンジンの近傍ではシールドが弱い ("Preemptive Strike"[TNG])。


クエーサー

地球から何十億光年も離れたところ(宇宙の果てに近いところ)にある、極めて特異な天体。銀河系の数百倍から数千倍ものエネルギーを、僅か数光年以下の狭い領域から発生しているらしい。そのエネルギー強度は常に変化しているので、普通の銀河とは考えにくい。また、エネルギーが大きすぎるので、恒星でもない。現在のところ、太陽の1億倍以上もあるブラックホールが存在する活動銀河であろう、という説が有力なようであるが、本当のところはわからない。

● 2267年、Enterpriseはあらゆるクエーサーの観測を命ぜられた ("The Galileo Seven"[TOS])。Enterprise-Dも同様の任務を与えられている ("Pegasus"[TNG])。この時代においても謎であり続けているらしい。(TOSが制作された頃はクエーサーが最も遠方の天体であったが、近年ではガンマ線バーストがそれに代わっている)


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