亜空間亀裂問題
Enterprise-Dなどのワープ航行が可能な宇宙船は、人工的に高レベルの亜空間を作り出して超光速飛行を可能にする。亜空間の内部では相対性理論(アインシュタイン;1905,1915)は通用せず、質量までもが小さくなるという信じ難い事象が観測される。もしも我々生命体が高レベルの亜空間にさらされれば、死んでしまうであろう。そのためワープ航行は惑星系では禁止されている。しかしながら、ワープエンジンが作り出す亜空間フィールドは、船が去った後も一定期間は痕跡が残るものの ("Interface" [TNG])、その後は完全に消滅して影響は残らないと考えられていたのである。
ところが、2370年、そうした認識を覆す事件が起きた。Hekaras2号星の Serovaと Rabalは(姉と弟)、かねてよりワープエンジンの発生する高レベルの亜空間フィールドが宇宙空間に致命的なダメージを与えることを危惧し、ワープ航行を禁止するよう宇宙艦隊に警告したが無視され続けてきた。そこで彼らは実力行使に訴えたのであった ("Force of Nature" [TNG])。
Hekaras星系の近傍は亜空間フィールドの強い宙域が入り乱れていて、テトリオン(Tetryons:亜空間に存在する素粒子)放射が強いのでワープ航行には適さない。その中でヘカラス・ルート (Hekaras Corridor)と呼ばれる長さ12光年の極めて狭い宙域だけが航行可能であり、全てのワープ船が通行に利用していた。そのため極めて強い亜空間ストレスが狭い宙域に集中していたのである。
Serova博士はルートを研究するうち、ワープエンジンによる人工的な亜空間が宇宙空間を次第に疲弊させて、このままの通行量が続けば、数十年のうちには亜空間亀裂 (Subspace rift)が発生すると予測した。この亀裂が一度発生すれば、Hekaras星系はその中に飲み込まれてしまい、消滅する(あるいは別の宇宙へと消える)。もしも亜空間亀裂が大規模に発生すれば、宇宙そのものが壊れてしまう。
Serovaと Rabalは、バーテロン機雷(Verterons:亜空間に存在する素粒子。ワープエンジンがこれにさらされると航行不能となる)をルートに設置して Enterprise-Dの捕獲に成功し、ピカード艦長を説得した。艦長は理解を示し、艦隊司令部に働きかけることを約束したのだが、Serova博士は実証して見せるため、自分の船で単身Enterprise-Dを飛び出してワープエンジンを能力以上の過負荷状態にして自爆してしまった。この時に極めて高レベルの亜空間フィールドが発生し、瞬間的に直径 0.1光年を越える亜空間亀裂が発生した。この命と引き替えの実験により Serova博士の理論は実証されたのだったが、その影響でHekaras2号星の軌道が変化して気候に重大な影響が出た。(連邦の気象制御装置により補正されたが)
この恐ろしい結果を目の当たりにした艦隊司令部は、即座に連邦宇宙域全域でワープ速度に制限を設けた。すなわち、「艦隊司令部の許可無くして Warp5以上の速度を出してはならない」、というものであった。同盟関係にあるクリンゴン帝国にも協力を要請したようだったが、どうなったかは明らかでない。また、なぜ Warp5と決めたのかも不明である。
しかしながら、Warp5というのは『僅かに』光速の214倍であり、このような牛歩では連邦宇宙域をパトロールさえ出来ない。宇宙基地の地理的条件によっては、満足な補給が得られない事も考えられる。また、ロミュラン帝国との戦力バランスが崩れる恐れもある。
そこで惑星連邦と宇宙艦隊は、亜空間亀裂を誘発しないワープの開発に乗り出した。
USS Voyager [VGR]や USS Enterprise-E [ST VIII:First Contact] では亜空間亀裂問題はクリアーされているようだ。USS Voyagerはワープエンジン(pylon部)が可変式で、ワープ時に30度ほど折れ曲がる構造になっており、曲げることによって亜空間フィールドの形を調節しているようである。Enterprise-Eではさらに改良されて、固定式ながらも問題をクリアーしているらしい。どちらの船も以前のずんぐりした形状に比べるとスリムになっており、そのためワープ(亜空間)フィールドの形状も細長くなっているはず。またワープフィールドのZ軸(上下)方向での圧縮技術の開発も大きく貢献ていると考えられる。-- 西恭史氏 in USA 【この点のさらに詳しい解説を補足解説#2に用意した】
ワープフィールドの形という点以外にも改良点はあるかも知れない。ワープエンジンの作動方式はロミュラン、クリンゴン、カーデシア、宇宙艦隊などみな異なっているようで、エンジンから出るエネルギー波形にはそれぞれ特有のパターンがある("The Homecoming " [DS9] etc.)。それぞれに長所、短所があるはずで、亀裂の起こし易さにも差があるはずだ。亜空間亀裂を回避するには、恐らくいかに『水しぶき』を上げずに『静かに』航行するか、ということであろう。であれば、改良型のワープエンジンは敵に探知されにくく、エネルギー効率も改善されているものと推察される。
補足解説
時空の断裂や捻れに関する出来事は他にもある。
22世紀、2169年、バルカンの調査船は亜空間断裂 (Subspace rupture)を Hanoli星系で発見した。次第に大きくなり、危険と判断して断裂の修復を試みたという。彼らはパルスウェーブ魚雷 (Pulse wave torpedo)を断裂に発射した。魚雷のパワーで断裂は修復されるはずであったが、魚雷の技術的未熟さが原因で逆効果となり連鎖反応的に断裂は拡大して、遂に Hanoli星系そのものが「この宇宙」から消えた ("If Wishies Were Horses" [DS9])。この断裂は自然現象と考えられているが、亜空間亀裂 (Subspace rift)と基本的には同じ現象と考えられる。
自然現象としても存在し、ビッグバンのエネルギー源ともいわれる“オメガ粒子 (Omega molecule)”は、極めて不安定で爆発しやすく、その際に周辺の亜空間を崩壊させてワープ不能になる。地球でも23世紀に人工合成を試みた科学者がいたが、多くの人命を失うと同時に空間亀裂を引き起こして失敗した。この粒子の完璧さはボーグの崇拝対象でもあり、合成に挑戦したものの、これまた多くのドローンを犠牲にして失敗している。あまりに怖ろしいものであるゆえに、連邦では存在自体が極秘となっているほどである ("The Omega Directive" [VGR])。
もう一つ、有名なエピソードは "All Good Things..." [TNG]である。これに登場する時空の断裂は、亜空間の断裂のような生やさしいものではない。断裂の「向こう」には”逆時間”が流れている、いわば「マイナスの宇宙」であった。
余談であるが、このエピソードには論理的矛盾点があるように見える。この点に関し解説を試みた。このエピソードを御覧になっておられない方は、ビデオなどを御覧になってから読んで頂きたい。
"All Good Things..." [TNG]について
また、西氏から私とは別の解釈を投稿して頂いたので、御紹介したい。
"All Good Things..." [TNG]について(by 西恭史)
補足解説#2
USS Voyager以前のワープ船は、ワープフィールド(亜空間フィールド)の形を整える機構は存在しなかったようだ。船の進行方向(X軸)方向には細長いけれども、断面(YZ面)ではほぼ円形である。
通常の宇宙空間に亜空間フィールドを作ると、何らかの「抵抗」を受けてワープ航行に抑制的に作用することは容易に予測される。そこで、YZ面の断面積を小さくする事、特にZ軸(船の上下)方向を圧縮する事により航行時抵抗を軽減し、同時に亜空間ストレスを少なくして亜空間亀裂を回避している可能性がある。
事実 Technical ManualにもZ軸方向のワープ場圧縮の可能性についての記述がある。Z軸圧縮技術の獲得により、エンジンの実質効率は劇的に改善されるものと考えられる。事実、USS Voyagerの最高速度は Warp9.975である。
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